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第31話『神聖女、領主をぶん殴り跳び出す』

 案の定、2階の部屋へ向かう最中で目の当たりにした光景は想像通りだった。


 両側の廊下には完全武装した兵士がギッシリと敷き詰められた状態で、パッと見ただけじゃ、何枚もある大盾によって部屋の扉すら見えない。

 モンスターはおろか、懸念していた通りで使用人の方々は中へ入れてもらえないことは容易に想像できる。


 でも想定通りなことばかりではなかった。


「通してくれてありがとうございます」


 誰もが通行を許可されないと思っていたから、目を合わせた瞬間に道を開けられるとは思っていなかった。

 質問をしている時間を惜しんで進み、すんなりと目的地へと到着。

 指示を受けているような義務感がないことは、通り過ぎていくときに見えた兵士の人たち強張った表情で察した。


 領民や使用人といった戦えない人たちだけが不安を抱いているわけではなく、先の見えない状況は兵士の人たちも同様のようだ。

 だというのに、一番上に立つ人が部屋に立てこもっているだけなんて……どれだけ自己保身を貫き通したいのか。

 もはや清々しさすら感じるけど、そこまでするのなら領地から逃げ出してしまえばいいのに。


 まあ、外の世界の方が未知数だし危険がいっぱいだと考えてしまうぐらいには、私と同じに外の世界を知らないのだから仕方ないのかもしれない。


「入ります」


 でも、そんなことで同情することはない。


 私はノックをせずにドアを開け。


「ど、どうしてルミナがここに!?」

「なんであんたが」


 せめて同情する余地があったとするのなら、罪悪感に苛まれてベッドの上か部屋の角で縮こまってる――ぐらいだったのが。

 あろうことか、広々とした部屋の一角に設けられた大きいテーブルに料理を並べてランチを楽しんでいる。

 さすがに頭を抱えそうなのが、お酒が入った瓶まで並んでいて……まさに今、飲んだのであろうグラスを手に持っていることだ。


 しかも、聖女マリナスも同様に。


「現状を理解したうえで、それですか」

「急に入ってきて何が言いたい」

「そうよ。あなた、追放された立場でどの顔下げて戻ってきたのよ」


 怒りを通り越して呆れていたけど、それすらを通り越して感情が湧き上がってこない。


「まず聖女マリナス。あなたは偽聖女?」

「はい? 何を根拠に偽物呼ばわり? 証拠はあるの?」

「この現状が全ての証拠じゃなくて?」

「いいえ。あなたが何かしらの小細工をしたから、私の力を存分に扱えないのよ。言いがかりにもほどがあるわ」

「そう? なら、事が終わったら聖女協会に確認させてもらうわね」

「い、いやそれは……」

「何?」


 さっきまでの威勢はどこに行ったのか、あまりにも小さい声で反論された気がするから聞き返してしまった。


「マリナスどういうことか説明してほしい」

「説明も何も、私は力を見せたじゃない」

「ああ、確かに見たさ。ルミナにもできなかったことを」

「でしょ? 私の方が特別なの。異論ある?」


 今その疑問を抱くことができるのなら、どうしてもっと精査しようとしなかったのか。

 と、本当に今更なことを言っても仕方ないし、恋は盲目という言葉を聞いたことがあるから……たぶん、逸れなんだと思う。


「私の力を確認したこともないのに?」

「そ、それは……」

「事実としてダンジョン封印という仕事を文句を言わず、毎日毎日やっていましたよね」


 ただし抜け出した1日は除いて、という事実が帳消しになるぐらい。


「そして今、私が辞めた途端。ダンジョン崩壊が起きている。これが証拠とならず何になると?」

「最初にも言ったでしょ。細工をしたと。そもそもの話、ダンジョンをたった1人で封印していたというのが嘘なんじゃ? ありえないでしょ、世の中を考えたら」

「私がダンジョン封印をせず、ただ時間稼ぎをしていたと?」

「ええそうよ。だって不可能だもの」


 そりゃあ世界を基準に考えたら、それはそうではある。

 でもだからこそ、盲目だった領主でも答えは勝手に導き出されるはず。


「ダンジョン封印をたった1人で行うことは不可能……」

「タレルもそう思うでしょ?」


 たった1日、たった1日だけ私が抜け出した日。

 今回ほどの騒動ではなかったが、兵士を総動員してダンジョンから出てくるモンスターへ対処していた事実が鮮明に蘇ってくるはず。


「不可能を可能にしてしまう存在。だから神聖女と呼ばれている」

「何を言って――」

「わかったようね。でも私、そろそろ行かないといけないの」


 私はこのまま立ち去るつもりはない。

 領主の元へと足を進め、拳を引いて。


「がはっ」


 領主タレルが椅子から転げ落ちるぐらい力を込め、顔面へ打ち込む。


「答え合わせがて来たとしても、自分が領主としての役割を果たしていないことは自覚できていない」

「……」

「あなたが目を向ける相手は、こんな偽聖女なの? 領民は今、不安でいっぱいなのよ。戦えもしない、いつモンスターが来るかわからない、いつ襲われるかわからない。そんな不安の中で」


 頬を抑えながら俯いたまま。

 自分勝手に反論しないことだけが、唯一の救い。


「兵士も一緒。私物化して自己保身を続けるのも論外。領主という地位に甘んじてるんじゃないわよ」


 こんな状況でも割って入ってこない人間が、どんな魅力があるというのか。

 何も愛していない、何も守ろうとしない、何も持っていない。

 自分だけが可愛い、自己中心的で他者を利用するだけの人。


 でも私は、この人が目を輝かせ、立派な目標を掲げて地位を得た日のことを憶えている。

 お父さんから宝物を貰う、とてもとても嬉しそうに笑っていた日のことを。


「もう行くわ。それとあなた、逃げられると思わないように」

「なんとでも言うといいわ。もうあなたの居場所なんてないんだから」


 戯言に付き合っている暇はない。

 歩き出し、窓をガバッと開けて最後に領主タレルへと目線を配る。


 あなたがどう決断しようと、別にどうだっていい。

 最悪な選択をするようなら、私にだって考えがある。


「じゃあ」


 不本意にも慣れ始めている、窓から飛び出して外へと出た。

ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!


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