第32話『神聖女、ダンジョンアタック開始』
伝えることは伝えたし、確認することは確認できた。
ダンジョン崩壊の理屈はモンスターが地上進出すること。
であれば、最初は地上に居るモンスターと大差ないか弱いやつらだけだし、強いやつらは階層を移動してくるから時間がかかるはず。
だから、すぐに地上が大混乱にならな……い……あれ?
「お待たせ? どうしたのそれ」
エドとラグそして、お馬さんには待機をお願いしていた。
でもどこかへ遊びに行っていたのか、誰かが遊んでくれたのかわからないけど……おもちゃ? みたいなのが地面に転がっている。
みんな、どこか誇らし気でもあり楽しそうでもある表情みたい?
屈んで確認してみると。
「え。これってもしかして」
数個合ったうちの1つが、見た記憶が鮮明に残っている物だった。
だってこれ、ここのダンジョン5階層で討伐したことのあるモンスターが所持していた木の棍棒だもん。
他にも衣類か装備かわからない布の切れ端も見たことあるし、うわ、この骨なんてまさに骨々モンスターの一部だ。
「これ、もしかして――倒してきちゃたのかな?」
各々が誇らしげな表情に加えて、声高らかに鳴き、吠える。
つまりもう、そういうことよね。
私が事実確認のために時間を使ってしまったから、その間にみんなでモンスターを討伐してきてくれたということ。
もふもふふわふわさらさらな三獣士という外見だけでは、他の人だったら判断もできないし信じることもできない。
でも私は、この子たちの力を目の当たりにしたからこそ、地上に出ているぐらいのモンスターは朝飯前な難易度だっただことだろう。
そんな予想はできたけど、お馬さんが戦う姿を見てみたかった気持ちも芽生えてくる。
でも、それはすぐに見ることができるからいいっか。
「私から離れて弱体化しても、みんな強いんだね」
少し心配材料が残るとすれば、それだけ。
私の影響があるからダンジョンから漏れ出る魔力による弱体化を無効化できる――という話をつい先ほど初めて聞いた。
エドとラグがダンジョン内で見せた戦う姿を見た後だと、なかなか信じられない話だけど。
追放されてすぐ、モンスターに襲われて負傷したお馬さんを目の当たりにしたから信じることができた。
「じゃあ、みんなも準備運動が終わったということで。ダンジョンまで移動しよう――」
領地内だから、ダンジョンまではそこまで遠くない。
入り口は直下型の穴になっているわけではなく、洞窟の入り口となっていて、そこに建物を強引に立てている。
間違って人が入らないようにしている、との話だったけど、それにしては一軒家と言っても過言ではない大きさだ。
「――さて、と」
外と繋がる両開きの扉から中へ入り、次にダンジョンへ繋がる両開きの扉から中へ入った。
「……大丈夫そう?」
早々にモンスターとの戦闘開始かと思いきや。
まさかの気配すらなく、ただ静けさだけが迎えてくれた。
結局のところ、理解したままに辺りのモンスターは討伐されていて、地上の危機はなくなったと判断できる。
それは手放しに感謝を伝えて喜ばしいことだけど。
逆に言えば完全に意思疎通できるわけじゃないから、何階層ぐらいの強さに匹敵するモンスターが地上へ出ていたことがわからない。
「でも逆に、今は安全ってことだよね」
この安全が何秒あるのか、それとも何時間あるかはわからないけど。
でもここからもっと前へ行く前に、確認しておきたいことがある。
「ねえ、お馬さん。どんな力を扱えるの?」
返事はなく、でも首を上下に軽く振りながら前進。
ダンジョンの奥へ背中を向け、私と向き合う。
「うわぁ……」
目の前で起きたことに、神秘的なものを感じて情けない声が漏れ出てしまう。
エドとラグみたいな巨大化をしたわけでも、急に魔法をぶっ放し始めたわけでもない。
空中に浮いている両翼が出現し、宙に浮き始めたと思えば足元には風が巻き起こり土が飛び散っていく。
目線が下に向いていると、気づけば体に黄金の鎧が出現し、翼後面には赤い炎が太陽のような丸みを帯びて漂い続けている。
「これが大聖霊なのね」
一言でいえば、黄金の馬具を身にまとうペガサス。
大聖霊という名前は飾りではなく、もはや神獣としか言いようがない。
「エドとラグは、まだ隠し持っている力とかはある?」
こちらも返事はなく、首を横にブンブンと振るだけ。
しかも勢いよく行っていることから、お馬さんの力は特別ということが伝わってきた。
つまり、エドとラグは大聖霊に区分されない聖霊ということにもなる。
「の、乗っていいの?」
『ブルフゥ』
軽快な動作で戻ってきたかと思えば、私の横へ着地。
自分の体がふわっと持ち上がったかと思えば、強制的にお馬さんの背中に誘導された。
相変わらず乗っているという感覚がなく、ふわっとした不思議さを再確認しているとエドとラグもぽんっと乗ってくる。
「でも大丈夫? ダンジョン内って明るさには困らないけど、迷路だよ?」
『ヒヒーンッ!』
「おわっ!?」
言葉はわからないけど、覇気が溢れる咆哮の後、超特急な速度で進行開始してしまった。
咄嗟に声を漏らしてしまったものの、相変わらず振動を感じたり風の抵抗を感じたりはせず。
この世界にはない単語であろう、ジェットコースターとか新幹線に匹敵する速度が出ているはずなのに、本当にもうベッドに腰を下ろしている程度の気分。
そして、さっきの質問が愚問だったことを思い知らされる。
たぶん初めて訪れる場所のはずでも、角に激突するわけでも通路を間違えることもなく突き進んでいく。
「す、凄い」
さらに驚愕を隠せないのが、道中で遭遇したモンスターが次々に触れることなく消滅していってしまうこと。
もはやモンスター側は認識することなく倒されていき、階層も次々に下へ下へ降りていく。
たった1分程度の経過で、気づけば10階層は到達している。
と考えている今も止まらない、全然止まらない。
このままなら第100階層まで時間はかからない――と思いたいだけど。
「やっぱり、足は止まっちゃうよね」
10階層と20階層のボス部屋ですら突破し続けていたけど。
たった今到達した、第30階層のボス部屋は足が止まってしまった。
ただ披露しただけかもしれないけど、ここからはモンスターが明確に強くなってくる。
私も1人でダンジョン攻略していたときは、ここで足を止めていた。
正確にはボスは倒しちゃったけど、往復時間の猶予を考えて帰っていただけではある。
強さ的にも1撃だったし、お馬さんも同じように倒せると思うけど……危機察知で足を止めたのだと思う。
「よし。ここは私が倒しちゃうね。エドとラグも見学しててね」
ダンジョン崩壊を食い止めると決めたのは私なんだから、ここは神聖女としての力を存分に発揮しちゃうよー!
と、意気込んでいると。
「ん?」
エドとラグが足の口へ乗ってきた――だけではなく、お馬さんも服の袖をふにふにな鼻で撫でてきた。
あまりにも幸せ空間が押し寄せてきたわけだけど。
ここはダンジョン。
もふもふでありふわふわな子たちと戯れていられる場所ではなく、しかも今はダンジョン崩壊の真っ最中。
言葉が悪いけど、時間の余裕がないからそんなことをしている場合じゃない。
「ごめんね、ここが終わったら――え?」
みんなを順番に撫でてあげようとしたのに、エドとラグの目は少し覇気がなくなっている。
少しウルッとしているような感じもするし、気のせいかもしれないけど……もしかして心配してくれているのかな?
ということは、私をボス部屋へ行かせないために足止めしてくれているということ?
「大丈夫よ。ここは私でも1発で倒せちゃったから」
そうなだめるも、私の力を目の当たりにしているにもかかわらず首を横に振っている。
もしかして私にはわからない、力が弱っているとか敵が強くなっているとか別の要因を気に掛けてくれているのかな。
私のおかげで悪影響を受けないみんなの反動を、知らない内に引き受けてしまっているという可能性はある。
でもそれは、体感できていないのだからわかりようがない。
あーあ……私もみんなと意思疎通が行えたら、こんなもどかしい気持ちを抱くこともないのに。
「もしも私が勝てなさそうだったら、みんなも手伝ってね」
『くぅ~ん』
『んなお~』
腰を下ろしてエドとラグを撫でて、感情を収めてもらう。
ここまで悲しそうな顔をされると、納得がいっていないことは簡単に伝わる。
そこまで心配してくれていることに喜びを覚えつつ、そんなに心配されるまで普通じゃない状況ということもわかってしまった。
女神様の力を授かっている私でも、さすがに心配の気持ちが芽生えてきてしまう。
それでも――私は、領民のみんなが安心して生活できるようにダンジョン崩壊を止めるんだ。
「よしみんな、行こう」
念には念を。
対峙する前に全ての魔法を発動させ、前へ。
10階層と20階層にはない大きい両開きの扉を押し、再び前へ。
お馬さんが足を止めた理由でもあるよね、と今更に思ったけど、あの止め方は別の理由を示していることだと思う。
たぶんだけど、この扉だって突撃の勢いそのままに破壊して通過できるとだろうし。
「さあみんな、戦闘開始――だ……よ……え、え……?」




