第28話『緊急準備、出発進行と意気込むも』
私は不明確な記憶を辿りながら街の外まで駆けだした。
道中、というか宿から飛び降りて着地した瞬間から周りの目線を集め続けていたけど、そんなことを気にしていられる余裕はなく足を進め続け。
エドとラグも一緒に走っているものだから、すれ違う人たちからの注目度はドンドン増していき。
ようやく街の外まで辿り着いたけど、通行人や門番の人たちから注がれる目線を逃れるため足は止められない。
「ここまで来たら、一旦は大丈夫かな」
今の私は、ここまで走ってきたとしても息を切らしていない。
魔法のおかげだけど、その不自然な光景も相まって注目されてしまっているのかな。
それはそうと。
勢い任せに飛び出してきちゃったけど、これからどうしよう。
行先は決まっているし、やることも決まっている。
じゃあ何を考えているかというと――それは目的地へ行く手段だ。
「誰かに見られてしまうかもしれない状況で、エドとラグに大きくなってもらうことは避けたい」
言葉を漏らしたから、エドとラグは『別に構わないよ』と言いた気な表情で首を傾げている。
ここまでの諸々の事情を鑑みて、たぶん精霊という存在は珍しいのだろうけど、それだけで変な噂が広まってしまうことはないと思う。
だから見られたとしても問題はなさそうだけど……能力的な心配は拭えない。
人間が走るよりは明らかに速い。
でも体力や速度は、あの白いお馬さんほどではないと思う。
「かかっても1日……2日ぐらいかな」
交代で走ってもらっても、夜通し動いてもらうぐらいだったら休憩を入れてあげたい。
でもそれだと領地に住んでいる人たちの安全は……。
「え?」
考えている時間の余裕があったら少しでも進もう、とまずはエドにお願いしようしたときだった。
なんと、このタイミングで絶対的に必要だった速度を有する存在――あのときの白いお馬さんが姿を現した。
「ど、どうしてここに?」
本当になんの脈略もない、位置情報を把握しているわけでもないのにどうして。
もしかしてハンノのお師匠さんが、聖霊通心なるもので私の行動を伝えてくれたのかな。
「もしかして、乗れってこと?」
感動的な再会はなく。
数時間ぐらいしか空いてないから当然だけど、白いお馬さんは振り向いて催促しているように見える。
間違いではなさそうだから、足を進めて背中に乗せてもらう。
「またお願いすることになっちゃったね」
『ブルフゥ』
言葉を交わせないけど、一方的に理解してもらえる状況にもどかしさを覚えるけど。
正確に感情を読み解くことはできなくても返事はもらえるし――。
「あわっ」
エドとラグも私の腕に収まって乗った瞬間、出発進行。
相も変わらず揺れることなく、圧倒的な速度――そう、車と同じぐらいの速度は出てると思う。
乗ったことはないけどバイクの方が適切なのかな?
勢い任せに行動しちゃったから、改めて状況を整理する時間ができてよかった。
多分状況だけで言えば複雑ではないはず。
ダンジョン崩壊を起こし、モンスターが地上へ進出し始めていて。
最初の方は上層のモンスターだけだから、たぶん領地内の人だけで対応できると思う。
私が居るとき、冒険者は居ないけど戦力と言えるほどの部隊がいることを聞かされていたから、大騒動にはなっていない……と思いたい。
「……」
モンスターは倒せばいい済む話だけど。
そもそもの話、聖女マリナスは自身の力を豪語していたにもかかわらず、何かしらの理由で役割を果たすことができなかった。
だからダンジョン崩壊が起きたという話になるわけだけど、どうしてそうなってしまったのか。
ま、まさか……偽物だった……?
その線はなくはないけど。
領主という、住んでいる人たちの命を預かっているような立場で、まさか“好みだった”という理由だけで正確に能力を把握せず発言を鵜呑みにしたということ?
でも正直、自分でダンジョン封印をしていたからわかるけど、そもそも他人から見てやっていることと言えば“祈りを捧げている”だけにしか見えない。
感覚としても同じで、明確なものはなく力がスーッと地面に抜けていくことしかわかっていなかった。
「――」
だからお互い様と言えば、その通りでもある。
なんとなくできる仕事をしていた私に対し、対価として衣食住を整えてもらっていたから文句は言えない。
そんな状況だからこそ恩恵は認識できず、「本当に仕事をやっているのか?」という風に思われていても不思議じゃない状況だった。
うーん……感情的には複雑……。
理不尽に追放はされたけど、そのおかげで目の前の精霊たちと出会い、パーティーのみんなとも出会うことができた。
こうして今も通り過ぎていく色鮮やかで新鮮な景色を味わえているし、沢山の人が行き交う新しい発見と体験は新しい世界に訪れたのかと錯覚さえしてしまえるほど。
正直に言ってしまうと、追放されてよかった、とさえ思ってしまっている。
だから、憎んでいる、復讐したい、という気持ちは微塵もない。
「すぅー――はぁー――」
ダンジョンと屋敷を行き来するだけでは味わえなかった、貴重な経験の数々は本当に格別だ。
だからこそ、この新しい人生を再び牢獄に閉じ込められ続けるような生活には戻りたくない。
もしもダンジョン攻略が失敗し、聖女としての仕事を再開することになるとすれば。
そのときは前より、もっと苦しくなることは容易に想像できてしまう。
「エド、ラグ。ダンジョンでは人目がないから全力で暴れちゃっていいからね」
『ワンッ』
『なーお』
最下層のラスボス……どれぐらい強いんだろう。
ダンジョンの構造上、階層数が多ければ多いほどモンスターは下に行けば強くなることはわかった。
そして、それに伴いラスボスの強さも比例して強くなる。
行ってみないとわからないけど……正直、不安は拭えない。
ううん、悪い方に考えすぎてもダメだよね。
「よーし! ぜーんぶ解決してみせる!」
ただ今は自分を鼓舞し、味わえるだけの景色を楽しもう。
お馬さんのおかげで揺れもないし快適だからね。
おでかけ気分で行こーうっ!




