第24話『注目を集めてしまうほどの力と力』
中に入ると、外観や外周から圧程度は想像できていたけど広すぎる。
よく大きさをドームと比較しているのをテレビとかで見ていたけど、正直よくわからないし何個分かもわからない。
でも間違いなく学校に備え付けてある体育館よりは大きいし、それに加えて全体に備え付けてある10段ぐらいの観客席もあって。
天井も高いし、エアコンみたいなささやかながらに風が吹いていて匂いがこもっていないどころか、空腹を誘う匂いも届いてこない。
「広いね~」
観客席だけでも数百人……もっとかな? 沢山の人が入れそうだし、私たちが居る広場もかなり面積がある。
「互いに気を遣いすぎないため、という説明は受けたね」
「なるほど?」
「見ての通り、毎日利用している人は居るけど沢山の人が訪れて場所を取り合うことはない」
「そうなんだ?」
説明の通り、人は居るけどポツポツとだけ。
納得と言えば納得。
演習という名前がついているぐらいだから、近接戦闘だけを繰り広げる稽古みたいなことだけじゃないはず。
大立ち回りに加え魔法も使用されると思えば、明確な区切りがあるわけじゃないから互いの距離を気にする必要があるということだよね。
「さて、と。じゃあ、わたしたちはあそこから壁までを使わせてもらおう」
「ハンノ、いつも通りに」
「はいはーい」
何が行われるかと思いつつ、足を進めるみんなを追う。
でも、指を差していた場所に辿り着くと。
「一旦、ルミナもここで見学してるといいよ」
「うん?」
「ここから後ろに壁を作って、防御魔法も展開して」
3人は振り返りもせず、本当にいつも通りの作業が始まることだけは予想できた。
と頭を使っている時間はなく、トントン拍子に岩の壁が形成されていき、半円な水色の膜みたいなものが展開される。
起きた事象を追うことで必死だったけど。
ここから壁までって、演習館内3分の1に該当する広さを占有するってこと?
まさか独占契約を結んでいるとか? 勇者パーティ―の特権で? 冒険者ギルドの優先事項とか?
「まず最初に準備運動を兼ねて、ミィラの防御力診断が始まるよ」
「防御力診断? 健康診断みたいな?」
「そうそう。ちなみに、ほとんど誰も居ないけど観客席側には常時防御魔法もとい魔力障壁が展開されているの」
「ほえ~そうなんだ」
なんでもかんでも始めて見るものばかりだから目を光らせているけど。
防御魔法みたいなのは自分でも扱えるからわかるとして、魔法にも防御系や障壁なんかもあるんだ。
でもなんで今その説明が――。
「え」
ミィラが大盾を構えたかと思えば。
リインが抜剣と共に放った光の斬撃は、一直線に空中を移動してミィラへ直撃。
大惨事になったかと思ったけど、そんなことはなく。
「アレで準備運動なの?」
「そうね。いつも通り」
「ダンジョンのときよりも規模が違いすぎない?」
「周りに人が居るかもしれない状況だからね。それに新人も居たわけだし」
その言葉と共に目線を下げたハンノを見て、私も理解した。
たしかにエドとラグがパニックを起こして走り回ったりすれば、狙っていなくても攻撃が当たってしまうかもしれない。
今は大人しくお座りしているけど、たぶん初めてのダンジョンだっただろうし、いろいろと大きい音も鳴っていたから本当に可能性はあったと言える。
「え」
お次はサーレ。
空中を殴ったり蹴ったりしたかと思えば、斬撃と同じく、緑色のブーメランみたいな形状の攻撃が宙を移動して大盾へ直撃。
しかし盾が壊れることはなく、ミィラ自身も傷を負ってはいない。
「あの攻撃ばかりに目がいくけど。ミィラの縦に施されている防御魔法がこれまた凄いの」
「ミィラも魔法が使えるの?」
「使えると言えば使えるけど、唯一の魔法でもある。防御系ではあたしよりも上ね」
「ほほ~」
でもそうだよね、始まって早々にあんな凄い攻撃を防ぎきっちゃうんだもん。
「補足すると、ミィラは防御魔法と防御系のバフを組み合わせることによって尋常じゃない硬さを生み出しているの」
「なるほど」
「でも今となっては、ルミナが居るからどうかな。相乗効果もあるだろうし、ルミナの方がいろいろと凄いから」
「私?」
「攻守一体ならギリギリ、凄いって枠に収まりそうだけど。そこに味方へのバフと回復もできるんだから、そりゃそうでしょ」
言われてみるとそうだけど、これは全部女神様の力あってこそのこと。
私が特別に凄いわけではない。
「ああ。加えるなら、精霊の加護もあるし」
『ヘッヘッヘッ』
『んなーお』
「もはや要塞ね」
「そこは人であってほしい」
そんな話をしていると、まさかの近接戦闘が始まってしまった。
まず跳び出したのはサーレ。
鉄壁以上に硬いミィラは、拳で戦う素早い攻撃をどう対処するのか。
「わお、何あれ」
「あれも凄いでしょ。あたしも所見では驚いて見入っちゃったから魔法障壁を維持できなかったもん」
大盾を放り投げたかと思えば。
装備している籠手から、顔を覆い隠せるぐらいの盾が両腕に展開された。
そこからは、両手両足を行使して攻撃を繰り出すサーレの攻撃を、ミィラは両盾と回避で対応し続けている。
超高速戦闘とまでは言わないけど、軽装備の人間相手に重装備の人間が対応している、というなんとも不思議な光景が進行し続け。
防戦一方かと言われるとそうではなく。
タイミングを見計らって蹴りには蹴りを合わせ、攻撃を途中でキャンセルさせるという反撃も加えている。
「ねえハンノ。ミィラ凄すぎない?」
「そりゃあそうさ。姉のカラナさんは聖騎士でもあり、剣聖の1人でもあるからね」
「え?」
「そんな人と訓練し続けていた日々。剣の腕は姉に追いつくことは叶わなかったけど、盾と防御の才覚は天井知らずだったみたいね」
「聖騎士とか剣聖とか全然知らないけど、あれを見ていると壮絶な経験をしていることだけはわかった」
だって何もわからない私が、あれを見て普通の人間じゃないってわかるんだから。
他の人が見てもそう思うだろうし、知識ある人が目の当たりにしたらどんな専門知識が出てくるのか想像もつかない。
「まあでも、一強じゃないところが勇者パーティ―が崩れない所以でもあるんだけど」
「どういうこと?」
「ほら、ミィラをよく見てごらん」
と言われても、戦闘の専門的知識がないから“凄い”ことぐらいしかわからない……あれ?
「どんどん後退している?」
「そう」
「でもそれって盾が小さくなったからじゃ?」
「正解だけど、それだけじゃないってことだね」
本当に知識がないし、戦っている人を観察したことなんてないから連続して同じリアクションしかできないよ。
「【龍虎の加護】――それがサーレが勇者パーティーで【理不尽な暴君】と呼ばれる所以なんだ」
「何それ全然わからない」
「まあ、それぞれ2つ名みたいなのがあるんだよね。周りが勝手に名付けただけだから、自分からは名乗らないけど」
「【理不尽な暴君】って随分と荒々しい印象しかないけど」
「本当にそのままの通りだからね」
多少は荒い口調のときもあるけど、殴りや蹴りで戦っているから? 暴言とかで挑発する感じ?
「【龍虎の加護】は攻撃回数や自身が傷を負ったり疲弊していくと攻撃の威力が増していくの」
「攻撃していく度に攻撃力が上がる?」
「うん。骨が折れるまで戦った日には、1撃で建物を破壊するのは余裕って感じ」
「何それ怖い」
「ちなみに噂とかじゃなくて、1回やってるのよ。ズタボロボコボコ片目しか開かないほど顔も晴れ上がったときに」
「そ、そんなに負傷したらどうなっちゃったの」
「最後の1撃で、城をぶっ壊してたわよ」
「うわぁ……」
人間が城を壊す? 拳で? もうそれって人間なの?
「ちなみに使用者の力量によって威力も変わるだろうから、今だったら山とか吹き飛ばしちゃうんじゃないかな」
「話を聞いただけで気絶しそう」
本当に白目で倒れそう。
と攻防を見守っていると。
観客席に人がぽつりぽつりと増えてきた気がした。
「あの人たち、最初から居たかな?」
「いや。あれは見ての通り見物人ね。冒険者の」
「勉強熱心な人たちなのかな」
「残念ながら全然違う。凄いもの見たさで集まってきているだけね」
「気持ちがわかっちゃうのが複雑なところ」
「あたしも理解できるから、見世物じゃないと怒ることができないのよ」
もしも私があちら側であったのなら。
同じく見に来ていたかもしれないし。
ダンジョンで何回でも見ることはできる機会があっても、よそ見して自分の命が危なくなる危険性のせいで集中できない。
だったら、と。
「そろそろね」
「ん?」
2人の攻防戦が終わったかと思えば。
リインが「じゃあ頼むよ」と言って、サーレはこちらへ小走りで向かってくる。
「お疲れ様」
「いんやぁ~。あの守り、いつかは突破したいな」
「仲間同士で闘志を燃やしすぎないようにね」
そんな2人のやり取りが終えると、サーレは床にドサッと腰を下ろす。
「ハンノ、いつも通りに周りにも頼んだぞ」
「わかってるわよ。もうやってる」
「さっすが【賢闘の魔女】」
「ほらルミナ、始まるわよ」
「い、いったい何が始まろうとしているの?」




