第23話『演習館という目的地へ到着するも』
「ここには何回も来ることになるだろうから、館内を見回ろう」
演習館へ到着した私たちは、入り口という明確な場所を通過することなく施設内へと入った。
というのもいろんなところに扉はあるけど、足元がくりぬかれている感じになっていて。
その片面が外と繋がる洞窟みたいな場所が続いている。
歩き始めて、街の風景とは変わった雰囲気に気付いた。
「冒険者しか居ない?」
視界に入ってくるのは、例外なしに武器や防具を装備している人たちのみ。
公園で説明を受けた内容から、冒険者だけが訪れる場所で間違いないとは思う。
でも外との隔たりがない場所で、一般市民が見学や雰囲気を体験するために歩いていてもおかしくはない。
「そうだね。何か気になる?」
「見えない壁があるみたいで距離感があるなって」
「ああ、たぶん意味なんてないと思うよ」
「そうなの? なんだか美味しそうな匂いも漂ってくるのに、ちょっと立ち寄ったりしないってこと?」
まだ見えてこないけど、どこからか漂ってくる香ばしい匂いは露店のものではないと思う。
明確な出入り口がないから、ふら~っと立ち寄って食べ歩きするにはちょうどいい場所じゃないかな。
「薄っすらと壁があるんだよ」
「え?」
もしかして魔法か何かで隔たりが設けられているってこと?
凝視してみても全然わからない。
「街や環境の安全を守ってくれている、とはわかっていても。どうしても武器を持っている人は怖いだろうからね」
「冒険者の中にも、いくらギルドが管理しているとはいえ善良な人間ばかりじゃないからね」
リインとハンノは、淡々と説明してくれているけど。
でもどこか物寂しさが感じ取ることができてしまった。
「あたしたちは取り締まる側だから、他の冒険者よりも事情を知りすぎてしまうんだよ」
「ボクたちが対応する事件は多いものではないと思う。でも確実に冒険者が犯人の事件は起きちゃっているからね」
「だからこそ、ワタシたちもいろんな場所を巡回して抑止力となろうとしてもいる」
「なるほど」
ついさっきまで居た公園も、周りの目がない気晴らしの場所という一面だけでなく、あそこで遊んだり立ち寄ったりする人を守るためでもあったんだ。
「この問題は長年続いているみたいでね。演習館にも観客席が設けられているんだけど、利用者の大半が冒険者になってしまっている」
「まあたしかに、催物でもない限り一般の人が戦っている人の姿を見ても退屈そうだもんね」
こればかりは仕方ないことなんだろうね。
転生前、実際に見たことはないけど。
治安維持を行ってくれている人たちが武装していたら、生活している人たちは安全かもしれない。
でも警戒することなく安心できるかと言えば、それはそれでまた別の話になると思う。
実際、私がこの世界で一般的な家庭で生まれ育ち、戦いとは無縁の生活を送っていたのなら、同じように距離を保った生活を心がけていたかもしれない。
「そして、ここが演習館の名物店」
匂いの元へ到着したようで、壁側を繰り抜いて中に店を構えている場所が視界に入る。
リインが手で示してくれたわけだけど。
冒険者が2人ほど買い物を済ませ、そこを少し目線で追ってみると延長線上にも購入したであろう人が歩いていた。
その人たちが手に握っているのは、包み紙を持ち手にして食べる……ツイスターみたいな食べ物。
付近から届いてきた匂いが、甘辛そうな胃袋を刺激するものだったため、あの商品が美味しいということは想像するに容易い。
「それで、あっちが女性人気爆発の店」
「最近は男性の利用客も増えているそうだ」
あ、あれはぁ! クレープ!
ツイスターの甘辛いソースに魅了されるのは理解できるけど、その隣にクレープ店なんて悪魔的所業!
しかも体を動かした後に釣られて来れば、それはもう2つセットで買うのなんて確定事項だよ!
今すぐにでも買って食べたぁあああああい!
「ちなみに延長線上にアイスとかジュースの店もある」
「えぇ!?」
「ボクのおススメは、その先にあるパチパチジュースだな」
も、もしかして炭酸ジュース!?
この世界の食文化いったいどうなっているの!?
転生前の世界と比べて、もはやないものを探した方が早そう。
今までの流れでないと想像するなら、麺類か魚系の料理……そう、寿司だったらない確率の方が高そ――。
「ワタシは施設外だが、寿司も好きだな」
「それがありなら、あたしはラーメンがいい」
「わたしも乗るとすれば、お蕎麦が好き」
な、なんだってぇええええええええええええええええええええ!?!?!?
もうなんでもありじゃん!
でもありがとう! 感謝の言葉しか出てこない!
こうなったら醤油だって味噌だってあるだろうし、塩だって岩塩だってあるよね。
じゃあ、おにぎりもあるし、焼きそばもあるし、チャーハンだってあるに決まってる。
和洋中なんでもござれの世界、最高すぎ!
「私、全部食べてみたい」
「欲張りだ。と言いたいところだけど。そういうものを食べられなかったということなんだね?」
「うん。時々出てくる果物ぐらいが救いだった」
「じゃあ“太らない程度に”で食べよう」
「うっ」
その言葉、今までの中で一番グサリと心に刺さる。
「心配することはないだろ? 聖女としての力を使うだけじゃなくて体も動かしてるんだから」
「サーレが言うと説得力のある発言だけどさ。年頃の食べ盛りは胃袋が無限大だからね」
「他人事みたいに言ってるけど、ここに居る全員が該当するだろ」
「あたしは仲間に入れないでね? 食べたら食べた分だけ体が重くあるんだから」
私は自分事だから笑えないけど、3人は「たしかに」「気を付けて」「もっと体を動かせ」と笑い声が飛び交う。
「さて、そろそろ本館へ入ろうか」
美味しそうな店を横目に見送り、脇の両開きの大扉へと足を向けた。




