第22話『公園から見渡す素晴らしき街景色』
「ここは?」
「公園だよ」
沢山の人たちが行き交う道を歩いて歩いて歩いて。
いろんな店の話を教えてもらいながら、ここへ辿り着いた。
そこまで高い場所ではないけど、さっきまで歩いていた場所を見下ろせるぐらいの高さはある。
一目見ただけでもわかるだろ、とツッコミを入れられそうな公園という場所だけど。
私にとっての公園は鉄棒やブランコとか遊具がある場所であって。
ベンチが数か所に設置してある、木の枠に囲まれた場所は始めて見た。
「何か気になるの?」
「ああ、いえごめん。なんでもないの」
もしかしたら何か遊具があるのでは、なんてキョロキョロ辺りを見渡していたから、そりゃあ気になっちゃうよね。
「エドとラグが走り回ったら楽しそうかなって」
「お、それはいい案だ。いくぞ!」
サーレは、あまりにも早く反応して走り出す。
その後をエドとラグは躊躇いなく追い、気持ちよさそうに伸び伸びと駆け始めた。
「あたしも魔法で遊んでこようかな」
と、ハンノも柄にもないスキップを交えながら離れていく。
「普段は、みんな気を張っている部分が少なからずあるからね」
「ワタシは宿の部屋ぐらいしか気を休めることができない」
「わかるよ、その気持ち。わたしもあんな感じに遊べたらいいのに」
「制限を設けられているわけでも、威厳を保つよう強制されているわけではないんでしょ?」
「うん」
もしもそんなことまで強要されていたら、人として扱われていないことと同じだと思う。
あまりにも酷すぎて、本当にそうだったら今すぐに役目を放り出して逃げるよう催促ほどのことだよ。
「間接的に縛られている感覚はあるけどね」
「自由であって自由じゃない。その間隔はみんなが共有するものだ」
期待という名の重圧。
同じ重さとして考えちゃダメなのはわかっている。
でも、私も転生してからずっと背負い続けていたから理解したつもりにはなってもいいよね。
少し訂正、転生する前にも経験する機会は何度かあった。
幼稚園から小学生、中学生と学年を進めていくにつれて嫌でも増していく笑顔の重り。
算数もできない小さい頃は動いたり喋ったりするだけで「かわいいね」「偉いね」、と無条件に褒められ続けていた。
でも小学生に上がって始まる勉強、そしてテスト。
それら明確な数字として表れる評価軸が登場すると、100点に近ければ褒められ、0点に近ければ失敗と捉えられ責められ怒られ。
勇者パーティ―とは雲泥の差ということはわかるけど、似たような経験はしてきた。
「でもそう考えると、私みたいな聖女が増えないと冒険者の役割ってなくならないんだよね」
「どうだろうね。持ちつ持たれつってやつじゃないかな」
「聖女が増えたとして。ルミナみたいに1人でダンジョンを封印し続けられる逸材は他にいない」
「ダンジョンの数が未知数である以上、聖女は何人いても足りないからね」
「その分、冒険者はどんな目標や夢を持っていても“適正”さえあれば就くことができる」
数には数を、適材適所という意味では理解できるけど。
終わりのない戦いに身を置き続けるのは、間違いなく聖女ではなく冒険者の方だ。
たぶん、ダンジョンを封印しつつも単独でダンジョンに足を踏み入れることができるのは私しかいない――ということを今日、知った。
でも中には攻略の最中で命を落としてしまう人も居るんだもんね……。
「難しく考えすぎない方がいい。少なからず、ダンジョンがあってモンスターが出現することにより、生活の基盤を整えている人も居るのだから」
「そうだね。わたしたちも同じだし」
箱入り聖女だった私にとって、敷地の外の世界は未知でいっぱい。
封印作業をしているだけで衣食住が整えられ、それ以上のことは何も求められなかった。
だから、転生して16年も経っているのに前の世界と感覚が変わらなかった。
でもそうだよね、この世界にはこの世界の理や常識があって、それぞれの生活や考えがある。
生死を懸けた戦いに身を投じ続けることを仕事にしている人が居ても理解する必要があるし、その過程で命を落としてしまう可能性も考慮しなくちゃいけない。
誰も死なないで平和に暮らす、なんて理想は、前の世界でもそうじゃないって勉強を通じてわかっていたことじゃない。
「昨日もその前も緊張感をもって戦っていたのに。ルミナが加わってからは驚きの連続で心境が複雑だよ」
「ワタシも同意見だ。絶対に守らなくちゃいけない存在が、前に出ても戦えるなんて役割を見失いそうだ」
「あれはその、あれよ。ダンジョン封印のお仕事最中、警備の目を盗んでモンスターと戦ったりしていたから」
「手癖にしては随分とド派手だね?」
「うぅ……だって暇だったから……」
本当に本当の本当に。
「だってダンジョン封印って暇なんだよ?」
「力を使っているから疲れるんじゃ?」
「それはそうだけど。でも手を合わせて、ずーっと動かないって想像するだけでも退屈じゃない? 一日中、毎日毎日」
「退屈ではあるし大変そうではある」
そんなこんな、沢山の人が行き交う街を見下ろしながら話をしていると。
背後で楽しそうに走り回ったり、魔法のボールを追いかけ回している楽しそうな空間に別の人たちが。
武器も持たない、すぐに冒険者でもないと見たらわかる、おばあちゃんと小さなお孫さんと予想できる人たち。
「楽しそう」
互いに笑顔で、何かを語り合って。
ボールやトランプなどの遊び道具がなくても、ベンチに座って楽しそうに。
あんな平和な光景は、転生する前にも観たことがあった。
だからこそ、どんな世界でも共通しているんだ、と心が温かくなってくる。
「あの光景を守ることができるなら、冒険者として活動するのは悪くないかも」
「そうだね」
「もっとも、ルミナは冒険者なのか聖女なのか曖昧な立ち位置であることは変わりないが」
「じゃあもう、聖女冒険者ってことで」
「いやいや合わさってないって」
「誰が聴いても困惑するな」
「じゃあじゃあ、冒険者聖女」
リインとミィラは「同じ」と口をそろえて言うけど。
私なりに真剣な答えを出したんだけどなぁ~。
「そろそろ夕方になるから、宿に向かいつつ。どこかの店に行ってみようか」
「いいね」
「ならギルド演習館はどうだ?」
「ご飯前に体を動かせるし、互いの力を披露できるしちょうどいいね」
「演習館って何?」
「ほら、あそこ」
リインが斜め下の方を指差し、目線を向けると。
「え? あの大きい建物?」
「そうだよ」
たぶん、この世界では理解してもらえない例えだけど。
見るからに体育館! 県とか市が運営しているような、大きなやつ!
もうそれにしか見えないし、ちゃんと屋根もあって。
ギルド演習館という名前から、冒険者がダンジョン以外で力試しや武器と装備を事前に試す場所なんだと思う。
いやぁ~新鮮さしかない場所にウキウキしつつ、転生前にも観たことのある景色が次々に登場するものだから親近感が湧いてきちゃった。
「おーい、移動するよー」
「おう!」
『ワン!』
『にゃ~』




