第21話『活気が溢れる街の景色を堪能する』
「わあ~」
冒険者ギルドを出た私たちは、目的もなく街中を歩きだす。
正しくは目的を決めるために歩いている、だけど。
あっちもこっちも、通り過ぎる人も笑顔が絶えず明るい声が溢れ返っている。
眠そうな人や少し焦っている人も見かけるけど、怠惰だって思うことはない。
それぞれの生活があることは考えられるし、それぞれの習慣だってあるから。
たぶん第2の人生じゃなかったら、こうして周りを観察したり他人の人生を想像することはできなかったんだろうなぁ。
「わたしたちも、時々こうして歩き回ったりするんだ」
「そうなの?」
「だな~。こうしている方が至福を感じられる」
「同じく」
「あたしも」
「どうして? どこかで座って休んだり、美味しいものを食べたりした方がいいんじゃない?」
だってそうでしょ?
みんなは勇者パーティーであり有名人なんだから、個室の飲食店や事情を考慮してくれる施設の方が気を休められるに決まっている。
こんな右を見ても左を見ても人・人・人な状況だと、どうしても周りからの目線を集めちゃう――あれ、集め?
「気づいた? 概ね考えている通りだよ」
「どうして?」
「ルミナ、目線を見てみるんだ」
ミィラからの催促されるがままに見てみると。
「みんな私たちを見ていない。それぞれがそれぞれの目線で歩いている」
「ああ、そうだ」
「全員ではないけどね」
後ろを歩くハンノの意見を確かめるべく、ちょっと跳んでみて視野を広くして見る。
すると、行き交う武器を装備している人たちは私たちを凄く見てた。
それどころか接近しないため退避しようと距離をとっているようだ。
「冒険者が多い場所であっても、普通に生活している人や引退した人たちも住んでいる。そんな人たちからは、わたしたちは他の冒険者と変わらないのさ」
「そういうものなの?」
「そうでもあり、そうでもない。曖昧な状態だけど、それぞれがそれぞれの世界を大事に生きている」
たぶんリインが教えてくれている内容も、転生前でも転生せずこの世界で生きているだけでは理解できなかったかもしれない。
元々の世界でも、実感がなかったわけではないけど。
学校終わりの夕暮れ時――帰路に就いて住宅街へ入ると辺りから届いてくる、包丁がまな板を叩く音だったり料理の匂いは他人の家庭を嫌でも感じた。
あのときは「お腹が空くから勘弁してぇ~!」ってぐらいにしか思えなかったけど、今となってはその当たり前が寂しい心を温めてくれていたと思う。
だからこそ、そんなそれぞれの家庭は大切であり尊いものなのだと――今更になって気づくことができる。
「そんな人たちからは、わたしたちは他人でしかない。珍しくもない、周りに居る冒険者と同じなのさ」
「なるほど」
一括りにして解釈していいかわからないけど。
勇者パーティーとして活躍し続けるみんなは、注目されない心休まる場所が、“行き交う人たちの風景に溶け込める”ということが重要なのかな。
特別視されない、有名になる前の自分たちを思い出せる、そんな大切な場所なんだと思う。
私は逆に、周りの目線がない場所で生活し続けていたから新鮮だけど。
でもこれから先、みんなの気持ちがわかるようになるのかな。
「ボクたちが居るからさ、今のうちに建物とかを眺めておくといいさ」
「建物?」
「ダンジョンばっか見てたんだろ? いいからいいから」
サーレに肩を叩かれながら、言われたままに目線を少し上げてみる。
見慣れている景色ではないけれど、不安が押し寄せてくることはない。
木造建築に石造り、煉瓦っぽい素材にガラス細工――それらは転生する前でも視界に入ることは多々あった。
でもコンクリートはないのかな、最大でも3階建てで大体は1階建てか2階建て。
空の景色や陽の光を完全に遮っていることはなく、建物同士も密集しているわけでもない。
そんな景色を観て、私は転生する前の穏やかな空気感を思い出す。
もう10年以上も前のことなのに、胸のあたりが温かくなって不思議と心地良い。
「素敵な街ね」
「だろ?」
色鮮やかな壁の色ではないけど、代わりに布を広げた簡易的な屋根が広げて合ったり、出窓みたいな場所に置かれている花が植えられた鉢は彩りとなっている。
そしてそれは露店で商売をしている人や行き交う人たちも一緒。
ド派手なファッションを着こなしている人は誰も居ないけど、目立たずくすんだ色でも表情や声色が景色を形作っていると思う。
転生前も都会に行ったことはないけど、たぶんあっちの景色とこっちの景色は、沢山の人が行き交う同条件だったとしても別の景色と認識するでしょうね。
「本当の意味ではまだかもしれないけど、みんなの気持ちが少しだけわかった気がする」
「ワタシたちは、姉さんと違って役職があるわけじゃない」
「そうなの?」
「ああ。勇者パーティ―なんて呼ばれているけど、名声でしかなく、特別報酬を貰っているわけではない」
「でもギルドだと扱いが特別じゃない?」
「諸々の待遇をよくすることで、厄介事が起きた際に動かしやすくしているのだろう」
なんて理不尽な話。
今までの話を加味すると、ダンジョン関係だったり強力なモンスターと戦う場面を対応するためってことだよね。
ギルドからの扱いがよかったとしても、それだけで命を懸ける選択を強いるなんてどうなの?
「実力を持っているのにもかかわらず戦わないなんて、無責任でしかないから」
「リインはそれでいいの? あなたが一番、誰よりも逃げ道がないじゃない」
「仕方ないよ。だって、わたしは勇者だから」
前を歩いているから表情はわからない。
でも、ほんの少しだけ声の明るさが薄れていたように感じた。
当人たちが納得しているのに、私がとやかく言うことではない……よね。
逆に考えよう。
「じゃあ私が加入したからには、“神聖女が居る勇者パーティー”って呼ばれるように頑張ろうっと」
「これ以上、有名になるってのは確約だから安心して」
「ハンノ。それはどういうこと?」
「どうもこうも。もうギルド内で噂は広まっているから。カラナさんのところへ行く際、周りを見てなかったの?」
「うん、あんまり見てなかった」
「なら仕方ない」
「ごめんごめん」
出来心で周りの人を治癒したけど、みんなの反応からやりすぎちゃったことはわかった。
でもいいことだと思ったんだけどなぁ~。
「街の見学はいつでもできるけど、もう少しだけこのまま歩こうか」
「うんっ」
ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!
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