分岐点はもう過ぎた
「ただいま」
そう言って、俺は家の中へと入って行く。
例によって、居間に向かわずに自室へと直行。今は妹は家に帰っていないはずだから、誰かが部屋の中にいることはないだろうと思い、俺は安心して自室のドアを開ける。が、俺の予想に反して三人もの人がいた。
一人は俺の姉(全裸ではなく黒いローブを羽織った状態)。後の二人は、俺の学校の生徒会長様と書記様だ。
唖然としてその光景を眺める俺に、笑顔を向けて姉が話しかけてきた。
「やあお帰り、アンドラス。しかしさすがは我が弟といったところだな。学校を無断欠席したしたのを心配して、二人もガールフレンドが様子を見に来てくれるとは」
「……いや、待てよ。その二人は俺のガールフレンドじゃないし、そもそも何で姉貴含めて俺の部屋に居座ってるんだ。まあ、大体予想はつくけど……」
「もちろん我が招待したんだ。ぜひともアンドラスの私室を覗いてみたいと、そちらのかっこいいお嬢さんに頼まれてね」
そう言って姉は生徒会長を指さす。少しばかり頬を赤らめた生徒会長は、気恥ずかしそうに言う。
「別に君のことをいろいろと知りたいと思って頼んだわけじゃないんだ。単に、君が無断欠席などをするから、何かトラブルに巻き込まれているのじゃないかと心配してだな。本当だぞ! 僕は何も嘘は言っていないからな!」
なぜか必至そうに弁解する生徒会長。
まあ学校中の憧れである生徒会長様が、俺なんかに興味を持っているとは最初から考えてなどいない。なぜそんなに必死に弁解しているのだろうと不思議に思いつつ、俺は言い返す。
「もちろんそんな風に考えてはいませんよ。それよりも、以前言ったと思うんですけど、あまりこういうことをされると目立ちそうで困るからやめてください。心配してくれるのはありがたいですけど、はっきり言って迷惑です」
そう言い返された生徒会長が、泣きそうに目を潤ませる。少し言い過ぎたかと、俺が謝罪の言葉を口にしようとすると、書記がぼそりと呟いた。
「どうしてこう主人公気質のキャラクターは鈍感な人ばかりなのでしょうか」
書記が何を言ったのかはよく聞き取れなかったが、とりあえず馬鹿にされたのであろうことは伝わってきた。
今更ながら、なぜ書記までここにいるのか気になり、俺は理由を尋ねる。
「生徒会長様がわざわざ俺の部屋まで来てくれたら理由は分かったけど、何で書記――じゃなくてトマトさんも家に来たの?」
相変わらずの感情が分からない無表情顔を俺に向けながら、書記が言う。
「それは、あなたのお姉さんと悪魔・超能力談義をするためです。この前随分と話があったものですから、週に三回××さんの部屋で悪魔・超能力談義をしようと約束したのです」
「な……」
なぜ俺の部屋で? とか、前回のあれで俺に会いに来るのは懲りなかったのか? とか、とにかく気になることはたくさんあったが、俺はようやく自分の考えの甘さに気づいた。
ついさっき、これからは他人との不干渉を貫こうと決意したはずだったが、すでにこの数日間でかなりたくさんの人間と関わりを持ってしまっていたのだ。それも、格別厄介そうな人たちと。
俺は考える。とりあえず事なかれな選択をするには、そもそも事なかれな選択肢がなければならない。では、今の俺のように明らかに普通じゃない奴らに囲まれ、事なかれな選択肢が存在しない状況では、どうすればいいのだろうか?
……どうしようもない。周りが変態ばかりの状況下では、普通こそが最も浮く存在となる。かといって自分も変態たちに合わせれば、今後の社会生活に大きな支障をきたす。
となれば、最後に選べる手はただ一つだ。
俺は全力で部屋から逃げ出すと、そのまま外に飛び出していった。
とりあえず事なかれ主義2に続く(かもしれない)。




