家族の名を呼ぶ日
王国の避難所で、春までに帰れると信じていた人々が口論を始めた。冬の支給品が減り、村ごとの配分に不満が出ている。セイルが呼ばれたとき、配給の列は長く伸び、兵が間に立っていた。争いの中心にいたのは、同じ村から避難してきた親子だった。
父親は息子の家族を先に並ばせようとし、息子は自分だけ特別扱いされるのを拒んでいた。周囲から見ると身勝手な争いだが、父には病気の孫がおり、息子はそれを隠したがっていた。セイルは親子を責めるより、治療師へ直接相談できる場所を作らせた。
配給係は全員に同じ量を渡す規則を守っていた。だが重い病人には温かい食事が必要で、健康な者には携帯できる食料が役に立つ。同じものを渡すことが、必ずしも公平ではない。セイルは規則を変える権限を持たず、担当の役人を呼んで事情を説明した。
その夜、病人用の粥が別に用意された。列は短くなったが、不公平だと感じる者もいる。セイルは配給の理由を掲示板へ書かせ、病状を知られたくない家族には番号札を渡すことにした。守るべきものは食料だけではない。
配給の列から離れた老人が、紙の説明を読めないと申し出た。セイルは掲示板の前で説明を繰り返すのではなく、役人へ口頭で案内する担当を置いてほしいと頼んだ。読み書きのできない者が不正を疑われては、救援を受けるだけでも恐ろしくなる。翌日から番号札は文字のほか、形でも区別されるようになった。
帰り際、息子が「父にきつく言いすぎました」と呟いた。セイルは返事に迷い、「まだ話せますよ」と答えた。家族の間の最善は、戦場の道よりも見えにくいことがあった。




