指揮官の空席
帝国軍の一隊で指揮官が病に倒れ、代行する士官が決まらなかった。階級は副官が最も高いが、現場の兵は補給主任の判断を信頼している。レオンハルトは双方の経歴を読み、どちらにも欠点があると知った。副官は規律に強いが地形に疎く、補給主任は道を知るが戦闘指揮の経験がない。
クラウスは階級通りの任命を勧めた。皇帝はその案を採りつつ、補給主任を軍議へ常時参加させる命令を添えた。共同指揮という曖昧な形は避け、最終判断の責任者を明らかにする。誰も不満を持たない配置などあり得ないが、責任の所在だけは消せない。
数日後、代行指揮官が地形を読み違えて馬車を止める事故を起こした。補給主任は別の道を提案していたという。皇帝は失敗を記録し、代行指揮官に説明を求めた。副官は謝罪し、補給主任の報告を疑った理由を述べた。古い地図と合わなかったからだった。
レオンハルトは地図を改訂させ、両名を更迭しなかった。必要なのは、どちらかを恥じ入らせることではない。次に矛盾した報告が来たとき、現地の証拠を確かめる仕組みだった。
補給主任は軍議へ出る時間が増え、倉庫での仕事が遅れ始めた。レオンハルトは代わりの記録係を付けさせた。助言を尊重するという名目で、本来の仕事を二倍にしてはならない。代行指揮官もその配置に賛成した。意見の違う二人が初めて、同じ不足を埋める相談をした。
病床の指揮官からは、早く戻りたいという手紙が届いた。皇帝は医師の許可が出るまで復帰を認めず、部隊の代行制度が機能していることだけを伝えた。人が倒れても仕事が止まらない軍を作るのは、人を軽く見るためではなかった。




