失敗した模型
帝国皇帝レオンハルトの前に、木で作られた新型の渡河装置が置かれた。工兵長は水に浮く足場を連結し、車輪を渡す仕組みを説明した。小さな模型は見事に動いた。だが皇帝は褒める前に、流木を一つ川へ入れたらどうなるか尋ねた。
工兵長は模型の下へ棒を押し込んだ。連結部が外れ、小さな橋は机の上でばらばらになった。彼は青ざめたが、レオンハルトは怒らなかった。「これが川の上でなくてよかった」実物を作れば資材が要る。だが机上で失敗する分には、失うものは木片だけだ。
クラウスは既存の橋を補強する方が早いと主張した。皇帝はそれも一案と認め、新型装置の研究は継続させた。試験と実戦投入を混同しないことが条件だった。失敗を許しても、失敗の代価を兵へ払わせる必要はない。
午後、工兵長は連結部の案を作り直した。皇帝はその間に、冬の渡河で氷が薄くなる場所を記した旧い川守の帳面を読んだ。水は地図の線ではなく、温度と流れで変わる。新しい発明にも、古い経験にも役割がある。
工兵長は壊れた模型を持って宿舎へ戻り、若手たちに同じ失敗を再現させた。誰もが違う場所を補強しようとしたが、最後には連結部の負担を測る必要があると分かった。皇帝は完成案を急がせず、試験の条件を揃えるよう命じた。結果を比べられなければ、どの改良が役に立ったかさえ分からない。
夜、模型の破片は捨てられず箱に収められた。工兵長は「失敗を記録に残されるのですか」と尋ねた。皇帝は頷いた。「次の者が同じところから始めずに済む」軍務院の棚には、成功した橋と失敗した橋が同じ幅の箱に並ぶことになった。




