雪で隠れた線
王国の丘を白く覆った雪は、軍が引いた境界線を一晩で消した。セイルが見回ると、前日まで兵が行き来した道が隣の畑へ繋がっていた。雪の下にある石積みが同じ高さで続くため、初めて来た兵は区別できない。夜の巡回が迷えば敵側の丘へ出てしまう。
彼は道の両側に柱を立てる案を出したが、ダリオは敵に通路を教える危険を指摘した。そこで軍用の印は低い位置へ付け、近くを歩く者にしか見えないようにした。目印を知る兵には、雪が深くなったときの退路を別に教える。
作業中、農婦エルダが自分の畑の端に立っていた。雪の下では軍の境も民の境も見えなくなる。それでも春に畝を作り直すとき、誰かが線を覚えていなければ争いになる。セイルは軍の図面とは別に、畑の目印を写すよう村役人へ頼んだ。
雪が解けるころまで両国の軍が同じ場所にいる保証はない。しかし記録を残さない理由にはならなかった。エルダは赤い毛糸の枝を引き抜き、代わりに石へ小さな傷を付けた。「これなら風に負けません」と言う。
夜警の隊長は布の目印が雪へ埋まった場合の合図を求めた。セイルは杭の高さを揃え、上端へ手袋でも触って分かる刻みを付けた。視界がなくなる吹雪を想定したのだ。試しに目隠しをして歩いた兵は、思ったよりすぐに道を失った。訓練は半刻で終わったが、戻った兵の声は沈んでいた。
午後、偵察に出た兵が低い目印を辿って帰った。帰還者は敵を見なかったと報告したが、雪の上に新しい足跡が残っていた。誰のものかは分からない。セイルは足跡を消さず、明朝の変化を見られるよう布を掛けて保護した。




