黒パンの割合
帝国軍の食事に混ぜる黒麦の割合を増やす案が、兵站局から提出された。戦費を抑えるためだが、前線の兵からは腹を壊す者が増えたとの報告がある。レオンハルトは軍医へ原因を尋ねた。黒麦が悪いのではなく、急に配合が変わったため身体が慣れていない可能性が高かった。
兵站官は「兵の贅沢です」と切り捨てた。皇帝は実際のパンを取り寄せ、割って中を見た。焼きが足りず、中心に湿りが残っていた。製パン所では新たに徴用された職人が働いており、大きな窯に慣れていなかった。
レオンハルトは配合の変更を一時止め、職人に窯の温度管理を教える時間を設けた。軍医には腹を壊した兵の記録を取り続けさせた。原因を一つに決めるのは簡単だが、正しくなければ次の犠牲者が出る。
前線で働く炊事係から、兵がパンを捨てずに湯へ浸して食べていると報告があった。皇帝はその工夫を褒めるより、なぜ固いパンを食べざるを得ないのかと問うた。固さは保存性のためでもあるが、食べられないほどでは意味がない。
製パン所の若い職人は、前線の食事を見たことがなかった。皇帝は一人を救護隊の補給見学へ派遣し、どんな状態でパンが届くか確かめさせた。彼は戻ってから、包装の紐を変えた。雪の中でも凍った指でほどけるようにしたのだ。粉の配合だけを見ていたときには、気づけなかった改良だった。
夕食の席で、レオンハルトは同じ配合のパンを口にした。廷臣は慌てて上等な白パンを運ぼうとしたが、彼は断った。兵と同じ味を食べても、兵の寒さや恐怖まで分かるわけではない。それでも知らないまま命令するよりはよかった。




