短い雪道
山の上では、王国の平地より早く雪が降り始めた。セイルは新しい軍路を確かめるため、若い伝令のノアとともに尾根へ入った。ノアは走るのが速く、隊の中でも評判だった。しかし雪が積もった石段で足が止まった。速さに慣れた者ほど、遅く歩くことが難しい。
セイルは足裏のどこへ体重を掛ければ滑らないかを示した。《適正》が教えるのは、いまの靴と雪の硬さに合う運び方だ。ノアは何度か真似たが、疲れが出ると元の癖へ戻る。言葉で教えられることと、身体へ染み込むことには差があった。
尾根の先に古い避難小屋があった。扉を開けると薪の束と、誰かが置いた乾燥豆が見つかった。軍の所有物ではない。セイルは使わずに済む分を残し、管理している山番へ補給の相談をするため場所を記録した。
帰り道、ノアが「急ぐ伝令がここで倒れたら意味がありませんね」と言った。セイルは頷いた。ただし全ての知らせを遅く運べるわけでもない。危険を冒してでも急ぐ報がある。その違いを見分けるのが、道を選ぶより難しい。
ノアは歩く速さばかりを訓練していたが、雪道では伝令袋が身体の横で揺れることも邪魔になった。セイルは紐を短くするよう助言した。実際に歩いてみると、荷が背へ寄り、つまずきが減った。二人は同じ斜面を二度登り直した。速度を競わない訓練は、ノアにとって初めてだった。 白い息が、二人の間で同じ速さにほどけた。
麓に戻ると、ノアの靴底に雪が固まっていた。セイルは温めて剥がすよう勧め、報告書には到着が遅れた理由を正確に書かせた。軍路は短くなったが、冬の行程に必要な時間はむしろ長くなっていた。




