銀貨の裏面
帝国の占領地で、軍票と銀貨の交換率が急に悪化した。皇帝レオンハルトへ届いた報告では、パン一つの値段が三日で倍になっている。軍票を持つ兵は買い物ができず、王国の住民は帝国の支払いを拒むようになった。
調査官は商人の買い占めを疑ったが、レオンハルトは市場の銀貨を集めさせた。王国の貨幣には二種類あり、古い銀貨は摩耗が激しく、秤に載せると軽い。軍票の交換表は新しい貨幣を基準にしていた。商人が悪いのではなく、制度が現地の実態と合っていない。
皇帝は古い貨幣の重さを複数計り、交換率を別に定めた。ただし摩耗を装った削り取りを防ぐため、交換所には民間の秤職人を立ち会わせた。クラウスは「敵国の貨幣へ手間を掛けすぎです」と言った。レオンハルトは答えた。「兵の給料が信用できなければ、兵が奪い始める」
市場では、軍の兵が銀貨を磨いている姿が見られた。磨いても銀は増えない。だが貨幣を握った人間にとって、汚れた表面は不安の印となる。皇帝は兵への説明書を短くし、秤の読み方だけを大きく書かせた。
秤職人は最初、帝国の軍票を信用しなかった。皇帝の使いが銀の重さを実際に量り直し、差額を公示すると、彼はようやく交換所へ座った。紙の命令は早く届く。だが人が信用を取り戻すには、何度も同じ重さを確かめる時間が要った。 秤の針は、ゆっくりと中央へ戻った。
銀貨の裏には王国の旧王の肖像が残っていた。帝国の兵もその顔を見て買い物をする。レオンハルトは、貨幣を塗り潰す案を退けた。国境を変えるために軍を動かしても、人が暮らす手の中の歴史を一日で消すことはできない。




