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《適正》の軍師――SSS級冒険者は、天才皇帝の侵攻に挑む  作者: 竜太郎


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海図にない湾

帝国南部の港から、王国との海上交易を止めれば失業者が増えるとの報告が届いた。レオンハルトは港の監督官を呼び、代替の仕事を尋ねた。軍用船の建造はできるが、造船所が必要とする材木の一部は王国産だという。国境を閉じる命令は、軍にも回り込んでくる。


海図を広げると、帝国南岸に小さな入り江がいくつもあった。監督官はその一つを補給港にしたいと言った。しかし入り江には漁村があり、干潮になると舟さえ底を擦る。皇帝は港へ行った経験のある水先案内人を召した。案内人は「船を増やすより、いまの船を直してください」と答えた。


古い船の修繕は商人の負担だったが、戦時の徴用で部品が手に入らなくなっていた。レオンハルトは軍による徴用の優先順位を改め、港へ戻す部品を定めた。これにより軍艦一隻の完成が遅れる。クラウスは難色を示した。


「航海できない商船を百隻持っても、物は届きません」と皇帝は言った。けれど商船を生かしたからといって、戦争に勝てるわけではない。海を使う国の一部を、陸の地図だけで決める危険を知った。


案内人は岩礁の位置を説明するため、机に塩を撒いて海岸線を作った。宮廷の書記が慌てて掃除しようとしたが、皇帝は図を写すまで待たせた。高価な海図より、実際に船底を擦った者の指が示す場所の方が、航海には正確なことがある。 塩の粒は波を模した。


水先案内人が去るとき、彼は海図の余白に岩礁の位置を描いた。長年誰も記録しなかった場所だ。レオンハルトは図を写させ、商船にも配るよう命じた。軍の秘密と航行の安全を区別することが、この日の決裁だった。

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