二通の冬便り
レオンハルトの執務室へ、同じ日に二通の手紙が届いた。一通は前線へ出た兵の母からで、息子の所在を問うていた。もう一通は王国の村に残る商人からで、帝国軍の駐屯によって家族が橋を渡れないと訴えていた。どちらも丁寧な文字で書かれている。送り先が皇帝だからといって、恐れまで消えるわけではなかった。
軍務官は母への返事を定型文で済ませようとした。皇帝は所属部隊を照会させ、息子が病院にいると知った。病状は軽くない。本人の同意を得ずに詳しい診断を知らせることはできないため、生存と治療中であることだけを書かせた。
商人の方には、橋の通行を許可できない理由を示した。軍の橋は今夜も補強が続き、荷車が通れば工事が止まる。ただし下流の渡し場で荷を引き渡す時間を設けることはできた。帝国兵に護送させるより、両岸の商人に受領を確認させた方が信頼が保てる。
リディアは「お一人で全部の返事を書く必要はありません」と言った。レオンハルトもそう思う。だからこそ、各部署がどんな言葉で返しているかを時おり確かめた。役所の文章が冷たいとき、人は国そのものが冷たいと感じる。
兵の母への返書を届ける郵便馬車は、山越えの前に車輪の修理をした。レオンハルトは速達の札を付けたいと思ったが、優先便には他にも命に関わる知らせがある。順番を飛ばす代わりに、行方を追える番号を封筒へ記させた。
二通の返事が出た翌朝、帝都は初霜に覆われた。窓ガラスへ指を当てたレオンハルトは、遠く離れた二つの家で封書を待つ人を思った。国家の線を動かす仕事と、家族に無事を知らせる仕事は、同じ日付の下にあった。




