折れた槍の持ち主
王国の訓練場へ、長槍を得意とする古参兵がセイルを呼んだ。噂の《適正》を試すつもりで、初めて触れる長さの槍を渡す。セイルは石突きを地面に置かず、重心を確かめた。古参兵が半歩踏み出すと、槍先は最短の角度で脇へ滑り、相手の手首に触れた。
「型を学んだのか」と兵は聞いた。「いえ。今の距離なら、そこが届きました」次の打ち合いではセイルが押された。槍の柄に古い亀裂があり、無理に受ければ折れていたからだ。彼は武器を手放して間合いを切った。古参兵は勝ったと思いかけ、柄の割れ目を見て言葉を失った。
折れた槍は古参兵の父から譲られたものだった。修理しながら使い続け、柄の芯が痩せているのを見逃していた。セイルは「替えた方がよい」と告げたが、兵は黙ったまま槍の先端を撫でた。道具には思い出がある。
二人は工房へ行き、穂先を新しい柄へ移した。古い柄は短く切り、訓練用の棒にする。父の槍が全く同じ姿で残るわけではない。それでも握り跡のある部分は消えなかった。
工房の職人は古い柄を燃やしてしまえばと軽く言った。古参兵が何も言わずに手を止めたのを見て、セイルは柄の節を残せないか尋ねた。職人は考え直し、手のひらほどの短い棒を切り出した。兵はそれを腰の袋へしまった。 手の中の棒は軽くなった。だが忘れたくない重さは残っていた。セイルはそのことを口にしなかった。
帰り道、古参兵はセイルへ尋ねた。「最善が見えるなら、悔しいことはないのか」セイルは手のひらにできた小さな擦り傷を見た。「見えたものを選べないことはあります」古参兵はそれ以上聞かなかった。




