王宮の古い地図
王宮の会議室に置かれた地図は、三十年前の測量をもとに描かれていた。川筋には青い線が引かれ、山道には細かな点線が続いている。セイルは一度眺めただけで、南の湿地にある橋の位置がおかしいと気づいた。以前の護衛依頼で近くを歩いたとき、川はもう少し東を流れていた。
「素人が地図に口を出すな」と将軍の一人が言った。セイルは反論せず、別紙に足跡の残った地点と水深を書いた。軍の測量官を呼ぶと、前年の洪水で支流が変わった報告が見つかった。図面の修正は、予算不足で止まっていた。
国王アルベルトは座を静めた。「君がSSS級であることは承知している。だが欲しいのは剣の腕ではない。兵を無駄に失わない知恵だ」
「私は人の上に立った経験がありません」
「ならば命令を下す役は将軍に任せよう。君には気づいたことを言ってもらいたい」
セイルは壁際の窓から、宮廷庭師が木の枝を束ねる姿を見た。一本の枝は細いが、束ねれば雪の重さを受け止めるための支えになる。誰かの仕事を奪わず、自分の見えるところを伝えるなら、まだできるかもしれない。
「期限を決めていただけますか」とセイルは言った。「まず国境の人々を冬まで生かす、そのための助言なら」
王は七十日間の臨時参与という形を示した。軍の指揮権は与えない。会議で発言し、現地を見る権限だけを持つ。将軍たちは納得していないが、拒む理由も見つけられなかった。
帰り際、測量官は新しい川筋を赤鉛筆で塗り直した。セイルは色を変えた理由を尋ねた。「古い青線を残せば、何が変わったか分かるからです」。その答えに頷き、二枚の図面を別々の筒へ納めた。
会議が散ると、セイルは古い地図を持ち帰らせてほしいと頼んだ。最新の紙と重ねるためだった。




