二人分の靴音
セイルが丘の裏手を歩いていると、見張り小屋の下から二つの足音がした。一つは兵の重い靴、もう一つは軽い布靴。巡回表には一名とある。岩陰から覗くと、若い兵が足の不自由な父親を小屋へ連れてきていた。避難先の納屋が寒く、昼だけ暖めたいという。
兵は規則違反を認めた。「父は歩けます。ただ長くは無理なんです」セイルは父親の膝に触れようとして、許可を求めた。熱を持つ関節は治療師に診せるべき状態だった。近道を選んでも、病気そのものは治せない。
見張り小屋は敵から見えにくい反面、山火事の際には逃げにくい。父親をここに置けば、持ち場を守る兵が家族を守ろうとして任務を離れるかもしれなかった。セイルはダリオへ事情を話し、麓の詰所の一角を昼間の休憩室に借りる許可を得た。ただし兵の親族全員が入れるわけではなく、治療師が優先順を決める。
「父を連れてきたのは間違いでしたか」と若い兵が聞いた。セイルは正誤を急がなかった。「気づかれない場所を選んだのが危険でした」と答えた。助けを求めたこと自体は責められるべきでない。
詰所の休憩室はもともと工具置き場だった。セイルは中の道具を別棚へ移してから、老人の寝る場所を決めた。療養の場所を作って別の仕事を止めれば、翌日の修理に困る。若い兵も手伝い、父親のための居場所を自分で整えた。
帰り道、父親は息子と歩幅を合わせようとして何度も遅れた。セイルは二人の間に入り、緩い坂へ誘導した。兵は初めて、速く歩かなくても見張りの交代に間に合う時刻を知った。足音は三つになり、村の方へゆっくり遠ざかった。




