赤い手袋
野営地の救護所で、セイルは赤い手袋を片方だけ握った少女に出会った。村を出る際、弟とはぐれたという。手袋は弟が母親から貰ったもので、片方だけ少女が預かっていた。兵は避難名簿に弟の名前がないと告げた。少女は泣かずに「だったらどこにいるの」と尋ねた。
セイルは避難路を思い返した。軍用の坂道、森を抜ける荷車道、使われなくなった巡礼路。弟が歩ける距離と最後に見られた場所を聞くと、巡礼路沿いの石堂が候補に残った。だが軍は斥候を出せる余裕がない。彼が一人で探しに行くと言うと、ダリオは「軍の相談役を私用で失えん」と止めた。
「私用ではありません。行方不明者の捜索です」とセイルは答えた。代わりに今日の軍議へ地形図を渡し、必要なら伝令で呼ぶ約束をした。石堂へ向かう途中、靴跡は雨に消されていた。スキルが最適な歩幅を教えてくれても、消えた痕跡は戻らない。
夕暮れ、石堂の奥から小さなくしゃみが聞こえた。少年は巡礼の老人とともに雨を避けていた。姉が村へ戻ると思い、二人で待っていたのだ。セイルは火を起こして身体を暖めさせたあと、救護所へ連れて帰った。
救護所の名簿には、少年の年齢が一つ違って書かれていた。本人は十歳と言い、姉は九歳だと言う。誕生日を迎える前に村を出たので、数え方が違っただけだった。セイルはどちらかを誤りと決めず、生まれた季節まで記してもらった。
少女は手袋を弟へ渡したが、弟は両方とも姉の手に押し戻した。「寒かったでしょう」と言う。二人が抱き合うのを見て、セイルは島で自分を待つ者がいなかった冬を思い出した。戻る場所のある人間を探せたことに、静かな安堵があった。




