綴じ直された遺書
帝国の兵士が出征前に預けた遺書の箱が、前線の火事で焦げた。書類そのものは残ったが、封印が溶け、誰のものか判別できない紙が混じっていた。レオンハルトは処分を禁じ、書記を派遣して筆跡と届け先を調べさせた。軍務院には死亡届が先に届くこともある。誤った遺書が家族に渡れば、訂正しても言葉を取り戻せない。
クラウスは、士気を守るためこの事故を公にするなと勧めた。皇帝は事故の内容を遺族へ伝えるよう命じた。「秘密にすれば紙は元に戻るか」将軍は答えず、護送箱を新調させた。
一通には宛名だけがなく、本文に幼い娘への謝罪が記されていた。兵が何を謝ったのか、皇帝には分からない。親の病、借りた金、出征前の口論。想像はできても、赤の他人が決めつけてよいことではなかった。封書は部隊の記録と照らされ、持ち主が生存していることが判明した。書記は手紙を返すか尋ね、兵は書き直したいと答えた。
日暮れ、軍務院の前で郵便馬車が車輪を替えていた。普通の手紙と軍用書類を分ける箱の仕切りが壊れているのを見て、レオンハルトは修理を命じた。小さな仕切りも、送られるべき相手を守っている。
書記たちは焼けた封蝋の匂いを消そうと、紙束を窓辺へ並べた。風が強くなり、一枚が飛びかける。レオンハルトは重しを置かせた。紙を救うために広げた窓から、別の紙を失いかけている。処理の手順にも、監督する者が必要だった。
皇帝自身はまだ遺書を書いていない。先帝が亡くなった際、宮殿の机から出てきたのは国政の覚え書きばかりだった。父の私人としての言葉を探した自分の手を思い出し、レオンハルトは机の引き出しを静かに閉めた。




