島で覚えた火
野営地で夜番の兵が火を起こせずにいた。湿った薪の上に油を注いでも煙ばかり出る。セイルは濡れた薪を退け、枯れた草の芯を取り出して細かく裂いた。兵に渡すと、火種は小さく赤く灯った。「灰環島ではそうしたのですか」と聞かれ、彼は頷くまでに少し間を置いた。
島では雨が降ると土が冷え、地表に巣を作る虫が一斉に岩の隙間へ入った。最初の冬、セイルは焚き火を守れず、手の感覚がなくなった夜を知っている。あのとき最善の行動が何か分かっていても、燃やす物がなければ身体を暖められなかった。翌朝の記憶は途切れ途切れだった。
「どうやって助かったんです」と兵が言った。セイルは焚き火の傍へ石を並べた。「火の代わりになる場所を探しました。地面の下に、少しだけ温かい岩があったので」兵は島の怪物を聞きたがったが、彼は岩の話を続けた。危険を大きく語れば、そこで暮らした十年の細かな仕事が消えてしまう気がした。
夜半、歩哨が交代するとき、火の置き場を一間動かした。風向きが変わり、煙が見張りの目を刺し始めていたからだ。セイルは火を囲った石をそのまま持ち上げず、片側だけを開いて空気を流した。煙は細くなり、闇の向こうの草地が見えた。
薪のそばにはまだ乾いていない靴下が吊られていた。兵が焚き火へ近づけすぎたので、セイルは少し離して風の当たる位置へ移した。早く乾かそうとして焼けば、明日は裸足に近い状態で歩くことになる。兵は靴下を見つめ、礼の代わりに薪を一本くべた。
焚き火を見つめる兵に、セイルは一本だけ太い薪を渡した。「これは朝まで取っておいてください」彼の声は穏やかだった。島から生きて戻った理由は、奇跡ではなく、残しておく一本を選び続けたことなのかもしれなかった。




