旗を持たぬ測量官
帝国皇帝レオンハルトは川沿いの測量を任せた技師から、怒りに満ちた手紙を受け取った。軍の将校が測量杭を勝手に移し、橋に都合のよい幅を報告させたという。軍は工期を縮めたい。技師は誤った数字で橋を組めば、増水した夜に兵ごと流されると書いていた。
クラウスは現場の調査を申し出た。皇帝は技師と将校を同じ席に座らせず、別々の計測記録を求めた。二人とも自分の正しさを証明しようとするだろうが、河幅は証言で変わらない。増水前と増水後に引かれた線を比べると、将校の示した幅だけが不自然に狭かった。
「処罰は必要です」とリディアが言った。「必要だ。しかし工事を人質にするな」皇帝は将校を後方へ移し、技師には測量を続けさせた。工兵隊の指揮は別の者に任せる。調査が済むまで橋を止めるのではなく、誤りが分かった箇所から造り直させた。
技師の手紙の最後には、王国側の測量標が一本残っているとの記述があった。戦前は双方の技師が互いの標を用いて水位を測っていたという。レオンハルトは標を壊さぬよう命じた。敵国の印が付いていても、川の高さを示す数値に国籍はない。
後方の記録係は古い数値を訂正する際、薄墨で二重線を引いた。完全に消すと、どの部隊が誤った図面を受け取ったか追えないためだ。レオンハルトは新図と旧図の配布先を照合させ、変更が届いていない工兵隊を二つ見つけた。
新しい測量図が届くまで、軍は旧い橋板を仮置きにした。速度を求めた将校が削ったのは、数日の工期ではなく人が信じる数字だった。皇帝は地図の隅に、測量官の署名を残す欄を増やした。




