切れた弦の音
丘の射場で若い弓兵が弦を切った。予備はあるが、指先に走った痛みで弓を握れない。仲間が「臨時参与なら何でも扱えるんでしょう」とセイルに弓を差し出した。セイルは受け取ったものの、乾いた木の重さを確かめて首を傾げた。自分の《適正》が働けば、構える位置や指を離す瞬間は自然に決まる。だが破損した弦が戻るわけではない。
新しい弦で射つと、的の端に矢が刺さった。二射目は中央に寄ったが、三射目で肩に鈍い痛みが出た。日常的に弓を引く兵の筋肉と、セイルの身体は同じではない。「一発なら当てる。でも十発続けるなら、あなたの方がいい」彼は負傷した弓兵にそう告げた。
見学していた副官は、どの武器でも隙を見つける男という噂を信じていた。「なら剣も槍も自在なのでしょう」と迫る。セイルは射場の外で乾いた枝を拾い、手首を捻る最も楽な角度を示した。「これが正しく動いても、腕を一本増やせません」自分が何を与えられたのか、まだうまく説明できない。
その夜、弓兵の宿舎で弦の保管方法が見直された。戦う前から湿っていた束と、暖炉の傍で乾きすぎた束が混在していたのだ。セイルが指摘したわけではない。肩を痛めた弓兵が、自分で仲間へ注意した。
射手の手を診た医師は、三日ほど弓を休ませるよう告げた。本人は不服そうだったが、部隊長は矢を作る仕事ならできると提案した。セイルは矢羽を揃える姿を見て、戦えない時間にも技能が役立つことを知った。
壊れた弦は捨てられず、工房へ回された。短い糸なら荷の結束に使える。的の中央に残った矢より、宿舎の壁に掛けられた予備の束の方が、翌朝の守備には役立つかもしれなかった。




