借りた土地の朝
丘の下の仮設畑には、軍が打った杭とは別に、赤い毛糸を結んだ細枝が並んでいた。セイルが夜明けに見回ると、避難してきた農婦エルダが枝の間を測っていた。「ここまでがうちの畝。向こうは隣の家。紙がなくても分かるようにね」彼女は、軍が測量を終えれば境の印を抜かれると思っていた。
将軍ダリオから届いた命令は、丘の北斜面を射界確保のため空けるというものだった。地図には空白として示されているが、現地には種を蒔いたばかりの畑がある。セイルは丘に登り、射手に実際の見通しを確かめてもらった。枝葉を払う場所は斜面全体ではなく、二つの窪地だけで足りた。兵の目線を基準にすれば、地図上の広い空白は必要ない。
「畑に兵を入れない約束はできますか」とエルダが聞いた。「敵が来たら守れないかもしれません」とセイルは答えた。気休めを言うより、いま守れる範囲を明らかにする方がよかった。
昼、射手たちは畑を避けて観測台を建てた。エルダは彼らへ湯を届けたが、感謝より先に靴の泥を落とすよう頼んだ。軍人が笑って泥を落とす間、セイルは別の心配をしていた。赤い毛糸の結び目は冬の風でほどける。土地を借りた記録が消えないよう、村役人に畝の位置を写してもらった。
村役人は測量板に「仮耕作」と記そうとした。エルダはその字を見て顔を曇らせた。「借りているだけだと、収穫した豆まで誰かのものになるのかい」。セイルは土地の所有と作物の所有を分けて記録するよう頼んだ。勝手に生えた草と、手で蒔いた種は同じではない。
夕方、農婦は種を覆う土を指で押さえた。敵の旗はまだ川向こうに見える。その距離が明日も変わらなくても、ここでは一粒の豆が育つための仕事が続いている。




