帰るための道
王国軍は新しい丘へ防衛線を移し始めた。セイルは将軍ダリオとともに、細い山道を歩いていた。先の戦いで高台を失ったため、補給路を引き直す必要がある。兵は疲れ、馬も休みを欲しがっている。敵は勝利の勢いを持つが、すぐに進んでくるとは限らない。
「皇帝は次も慎重に来るだろう」とダリオが言った。
「私も、そう思います」
セイルには相手の心は読めない。それでも橋を焼かず、捕虜を返した皇帝が、兵の退路を無視して突っ込んでくるとは考えにくかった。だからといって油断はできない。合理的に進む相手は、準備が整ったときに確実に来る。
丘のふもとでは、避難民が仮設の畑を耕していた。土は浅いが、豆なら育つかもしれない。セイルは兵の歩く道と畑の境に木杭を打たせた。軍が通るたび畝を踏み荒らせば、来春の食糧が減る。
ダリオは新しい防衛線の図面を広げた。砦を前に置く案、丘の上へ兵を集める案、補給路を広く保つ案。どれにも利点があり、欠点がある。セイルは一つずつ条件を確かめ、失敗したときに帰れる道を残す配置を選んだ。
夕暮れ、丘の下を小さな荷車が通った。積んであるのは薪と種袋だった。セイルは道を空け、車が通り過ぎるのを待った。戦場を歩く足と、暮らしへ戻る足は、同じ道を使っている。
木杭を運ぶ農夫は、戦が終わったら畑の境に使いたいと笑った。セイルは軍の印を付けた木だけを軍用にし、借りた道具は持ち主の名を残すよう頼んだ。明日の守備のために借りる物が、来春の暮らしまで奪うことのないように。
翌朝も軍議は続く。帝国の兵も国境で準備しているだろう。二つの国が何を守り、何を失うかは決まっていない。セイルは夜のうちに白い石をいくつか集め、次の道標を立てる場所を探した。




