戻った二人
王国と帝国の捕虜交換は、川沿いの古い石橋で行われた。双方の兵は離れた位置に立ち、中央には塩商人が一人いる。セイルは将軍ダリオの許可を得て、王国側の救護隊に同行した。橋の板は雨で黒ずみ、川音が人の声を小さくしていた。
帝国側から担架が二つ運ばれてきた。一人は足に包帯を巻き、もう一人は肩を吊っていた。二人とも目を開けている。セイルは名前を呼び、本人の返事を確かめた。間違いなく高台で残された兵だった。
帝国側へも負傷兵が引き渡された。片方の兵は王国の治療師に礼を言い、もう片方は何も話さず立ち去った。どちらも自然だった。ここで感謝を強いる理由はない。
戻った兵の一人がセイルへ言った。「白い石が見えたんですが、脚が動かなくて」
セイルは頷いた。「迎えに戻れなくて、すみません」
兵は少しだけ目を伏せた。「石があったから、どっちへ帰ればいいか分かりました。迷わなかったです」
救護隊が担架を本営へ運ぶ間、セイルは橋の手すりを見ていた。帝国の兵にも負傷者がいて、王国の治療師にも疲れた顔がある。どちらも同じ川の湿気を吸っている。
二人の兵を運び終えた救護隊は、担架の布を洗うため川から水を汲んだ。セイルは井戸の水と混ぜず、汚れた水を下流へ流すよう言った。橋では銃も剣も振るわれなかったが、帰ってきた者を病ませない仕事はまだ続いている。 川は変わらず流れた。
夕方、ダリオは戦線の引き直しを命じた。高台を失ったぶん、次の丘の道を守らねばならない。セイルは新しい地図を広げ、川を越える道だけでなく、負傷者が戻れる道をもう一度探し始めた。




