言い切れなかった判断
王国軍の本営で、セイルは負傷者の一覧を前に座っていた。高台から撤退した判断は、軍全体を守るには必要だったと思う。だが二人の兵を置き去りにした。最善だと感じた道にも、残るものがある。彼は紙に記された名を何度も確かめた。
将軍ダリオが部屋へ入った。「お前の案で隊の半分は助かった。それは認める。しかし全員ではない」
「分かっています」
セイルは謝罪より先に、二人が最後に見られた場所を尋ねた。敵が占めた高台の外れである。夜中に忍び込む案もあるが、負傷者の所在は確認できていない。無理に救出隊を出せば、さらに人を失う。
帝国の使者が白旗を掲げて近づいたのは、その翌朝だった。負傷した王国兵を二人保護しているという。捕虜の交換を提案する書面には、皇帝の印があった。ダリオは罠を疑ったが、負傷者の容体と交換場所の提案は具体的だった。
セイルは交換に応じる前に、王国側で捕らえた帝国兵の名簿を求めた。釣り合う人数かどうかより、誰がどこにいるか確かめるためだ。相手の書面には一人ずつの傷の説明が添えられていた。
「皇帝はこういうことも考える人なんですね」とセイルが言った。ダリオは苦い顔をした。「だから厄介なのだ」
王国の捕虜名簿を作る書記官は、負傷者の名前を一つ読み間違えた。セイルは本人の所属と出身村を合わせて確認した。名前の違うまま交換すれば、戻ったことを故郷へ知らせられない。帳簿の一文字にも、その先で待つ人がいる。
交換の準備を整えながら、セイルは自分のスキルの限界を改めて知った。道を見つけられても、戦争をなかったことにはできない。二人が帰ってきたとき、彼はようやく目を合わせて謝ることができるだろうか。




