欠けた人数
帝国軍が河岸の高台を得た翌朝、皇帝レオンハルトの前に死傷者の名簿が届いた。勝利の報告書には高台の確保と書かれ、別紙には戻らなかった兵の名が並ぶ。皇帝は名簿をめくり、工兵隊からも多くの負傷者が出たことを知った。
クラウスは次の丘まで進む好機だと主張した。敵は退き、士気は上がっている。皇帝は橋板の修繕状況を確認した。二列目はまだ不完全で、負傷者の搬送が続いている。今押せば丘へ届くかもしれないが、渡河路を失う危険も大きかった。
「一日置く」と皇帝は告げた。
クラウスは不満を飲み込んだ。皇帝も機会を失う怖さを知っている。しかし戻る兵の列を見たあとで、勝利の看板だけを追うことはできなかった。
夕方、王国軍が引き揚げた高台の外れで、負傷した敵兵が見つかった。帝国の衛生兵は捕虜として連れ帰り、治療した。皇帝は報告を受け、身元と負傷の程度を記録させた。敵を助けたからといって、戦の責任が消えるわけではない。それでも助けられる命は目の前にある。
病院では王国兵が二人いると分かった。彼らは言葉を交わす余裕もなく、同じ部屋で手当てを受けていた。皇帝は捕虜交換の可能性を調べさせた。使節を出すには相手の同意がいる。
名簿には同じ村の兄弟が続けて記されていた。皇帝は二人の親へ送る通知を別々にしないよう指示した。違う役所から違う日に報せが届けば、家族は何度も同じ恐れを味わう。戦場の後の仕事にも、細かな配慮が必要だった。
高台の旗は帝国のものになった。だが地図の境界を塗り直すのはまだ早い。旗を守る兵は明日も食べ、眠り、傷を洗わなければならない。勝利の後ろには、欠けた人数だけ空の寝台が残っていた。




