白石の帰り道
王国軍の前線に、帝国軍が浅瀬を越えたという知らせが届いた。セイルは地図の白石を置いた地点を指した。そこは川岸から高台へ上がる退路で、夜に兵が迷わないよう目印を付けていた場所だ。敵が渡るなら、守備隊は白石を辿って後ろへ下がることになる。
将軍ダリオは高台を守り抜くよう命じた。セイルは敵の人数を尋ね、報告が揃っていないと知った。霧と矢で見通しが悪い。無理に守れば、横から敵が来たとき逃げられない。彼は高台の端にいた弓兵を段階的に下げ、別の位置から矢を射られるようにする案を出した。
戦場へ着くと、土の匂いに混じって火薬と汗が漂っていた。負傷した兵が白石の近くで座り込み、仲間を呼んでいる。セイルは盾を持った二人へ声を掛け、短い綱を渡した。三人で引けば、歩けない兵を背負わずに運べる。
遠くに帝国の旗が見えた。橋板の上には兵が詰まり、後ろの工兵が何かを直している。今なら反撃で押し返せるかもしれない。しかし王国の弓兵も疲れ、矢筒の底が見えていた。セイルはダリオへ、無理な突撃は避けるよう伝えた。
日暮れ前、王国軍は高台の一部を離れた。撤退は乱れず、負傷者をほぼ運び出せた。それでも取り残された兵が二人いるとの報告が入った。セイルは胸の内で道を探ったが、敵の位置が分からず、最善を選べない。
負傷兵を運んだ盾兵の一人は、腕に深い痣を作っていた。セイルは救護班へ彼も診てほしいと頼んだ。自分の足で歩いて戻った者ほど、手当てを後回しにしがちだ。盾を支える腕が明日動かなければ、守備線に穴が空く。
白石の列は土に汚れながら残っていた。そこを通って帰れた兵も、帰れなかった兵もいた。セイルは二人の名を伝令へ書かせ、翌朝の捜索の可能性を探り始めた。




