近道の値段
王国軍の若い将校が、帝国の補給隊を襲うために山の近道を使いたいと申し出た。地図には短い一本の線が引かれている。セイルはその道を知っていた。冒険者として薬草を採りに入ったことがある。道は狭く、途中に雨で崩れやすい崖がある。
「夜なら敵に見つからず通れます」と将校が言った。セイルは通れる人数を尋ねた。二十人なら抜けられる。しかし百人では列が長くなり、暗闇で足元を確かめる時間がかかる。近道は人数が増えるほど遅くなる。
将校は敵の補給を叩けば多くの兵を救えると訴えた。それも事実だ。セイルは否定せず、少人数の斥候だけを通し、敵の荷がどこへ向かうか確かめる方法を示した。無理な襲撃より情報を持ち帰る方が、明日の判断がしやすい。
斥候に選ばれた兵は、岩場を歩く訓練を受けた者だった。出発前、セイルは靴紐の結び目を確かめ、乾いた綱を一本渡した。「崖で使わずに帰れれば、それが一番です」
夜半、斥候が戻った。補給隊は予想より北の道を進んでいた。襲撃隊を出していれば、空の道を走っただけだったろう。将校は悔しそうだったが、斥候の報告を受け取った。
斥候が持ち帰った報告には、補給馬車の数だけでなく鐘の音も書かれていた。荷車が止まった町で、昼の礼拝が行われていたからだ。セイルは兵が町へ入らずに済む道を選び直した。民の集まる時刻に騎兵を走らせれば、不要な混乱を招く。 斥候の報告はそこで終わった。
セイルは地図の近道へ小さく注記した。短い。ただし大人数には向かない。便利な道にも条件がある。その条件を消したとき、近道は人の命を奪う遠回りになる。




