揺さぶりの条件
帝国皇帝レオンハルトは、王国の冒険者を帝国側へ招く提案を受けた。高い報酬と自由な活動を保証すれば、少なからぬ者が移るだろうという。軍務官は特に上級冒険者の数を挙げ、敵の戦力を削げると力説した。
皇帝は契約書を読んで、その中に家族の移住条件がないことを見つけた。冒険者が移るとしても、暮らす家や子供の学校をどうするのか。報酬だけで人が動くと考える案は、長続きしない。
「募集はしてよい。ただし仕事の内容を明かし、退職の自由を認めること。王国の家族を人質に取るような真似は禁じる」
軍務官は不服そうだった。敵国の人材なのだから、利用すればよいという考えも理解できる。皇帝はそれでも契約の条件を変えなかった。国を一つにしようとする者が、最初から約束を破るなら誰も従わない。
クラウスは別の手として、王国側の兵站路を騎兵で攪乱する案を出した。皇帝は限定的な騎兵の出動を認めたが、民間の荷車を襲わないことを徹底させた。標的は軍用荷の通る渡し場だけである。
夜、帝都のギルドへ募集の札が掛かった。王国出身の冒険者はそれを見つめ、誰もすぐには手を伸ばさなかった。皇帝は報告を聞いて、驚かなかった。長く生きた場所を離れるには、銀貨の数より多くの理由がいる。
募集札の端には、帝国の文字が読めない者への説明日も記された。皇帝は翻訳係を置き、契約書の控えを本人に渡させた。読めない約束は、あとでいくらでも変えられる。自ら志願する者を集めるなら、その言葉が同じ意味で伝わる必要があった。
国境では渡河に備えた騎兵が馬具を整えていた。募集の札と進軍の命令は、違う紙に書かれながら、同じ皇帝の署名を持っていた。




