冒険者の契約
王国の冒険者ギルドに、王宮から新たな協力要請が届いた。国境で魔物が増え、村を逃れた者が街道で襲われている。軍は帝国への備えで手が足りず、冒険者の力が要る。ミレーネは依頼を掲示したが、報酬が低いことに顔をしかめた。
セイルは久しぶりにギルドへ戻り、依頼書を読んだ。「軍の仕事として出すと、自由に動けない人もいます」とミレーネが言った。ギルドに属する者は国王へ忠誠を誓ったわけではない。国外出身の冒険者も多い。
セイルは依頼を小さく分けた。避難路を調べる仕事、魔物を追い払う仕事、薬を運ぶ仕事。それぞれ危険度と報酬を別にする。剣が得意でも人の護衛が苦手な者はいるし、戦いを避けたい者にもできる仕事がある。
若い冒険者の一人が尋ねた。「セイルさんは王国軍に入ったんですよね」
「期限のある手伝いです。ギルドの札は返していません」
彼は小さな札を見せた。SSS級の印は以前と同じだった。軍の肩書が増えたからといって、五年間歩いてきた道が消えるわけではない。
夕方、魔物よけの鐘を設置する依頼に数人の職人が名乗り出た。彼らは魔物を倒せないが、設置できる場所を知っている。セイルは地図を広げ、鐘の音が重なる地点を選んだ。
契約に署名した冒険者たちは、出発前に組合の古い鐘を鳴らした。危険な依頼へ行くときの習わしだ。セイルも五年前の初仕事でその鐘を鳴らした。今は立場が違う。それでも帰還を祈る音に、階級の違いはなかった。
ミレーネは署名済みの契約を棚に並べた。国境へ向かうのは軍人だけではない。契約を選んで出発する冒険者たちも、それぞれの仕方で人の道を守ろうとしていた。




