霜のついた杭
朝、王国の川沿いに霜が降りた。セイルは見張り台を降り、兵が打った杭に手を当てた。木の表面は凍っているのに、根元の土はまだ柔らかい。昼になれば杭は緩むかもしれない。工兵長は寒さで地盤が固まると考えていたが、川の近くではそう単純ではなかった。
セイルは試しに杭を一本抜き、隣へ打ち直させた。叩く音が違う。浅い層の下に柔らかな泥が残っている。敵が攻めてくれば、柵を支えにした兵が転ぶ恐れがあった。工兵は杭の間に横木を渡し、力が一点に集中しないよう補強した。
昼過ぎ、偵察から戻った兵が帝国軍の渡河設備について報告した。杭列が整い、橋板が数を増している。近く攻めてくる可能性が高い。将軍ダリオは守備兵を増やそうとした。
「川岸に集めすぎない方がいいです」とセイルは言った。橋を渡る敵を防ぐ必要はある。だが岸の土はまだ不安定だ。重い兵器を置けば、味方の足元から崩れる。
ダリオは砦から弓隊を移し、歩兵の大半は高台に残した。矢の届く距離と退路を合わせて確認する。セイルは兵士に夜の目印として白い石を置いてもらった。暗闇で後ろへ退くとき、足が迷わないようにするためだ。
霜のついた杭を調べた若い工兵が、前日の印の位置を覚えていた。セイルは彼に改修の前後を記録させた。もし柵が倒れたら、どの方法が足りなかったか知るためだ。失敗を前提に備えることは、失敗を望むことではなかった。
日暮れ、霜は解けて川岸に黒い泥が滲んだ。見張り兵は白い石を一つずつ踏んで場所を覚えた。遠い対岸では帝国軍の焚き火が揺れていた。明日も同じ静けさとは限らないが、今夜の足元は確かめられた。




