待つことの損失
皇帝レオンハルトは河岸の工兵隊から、渡河設備がまもなく整うと報告を受けた。予定より長くかかったが、橋板は揃い、杭列も安定している。クラウスは満を持して攻撃日を提案した。皇帝は喜びを表さず、王国軍の兵の動きを尋ねた。
王国軍は後方に守備を分け、主力を砦に集めていない。こちらが川を越えても、すぐには決戦にならないだろう。皇帝は前線に備えを命じる一方、兵糧車を一日分多く待つことにした。攻撃すれば渡った兵が戻れない状況だけは避けたい。
「待つうちに敵は強くなります」とクラウスが言った。
「それも損失だ。だが補給がないまま攻める損失と、比べなければならない」
夜、軍務院から冬の燃料価格が上がったという報告が入った。帝国領内で寒さが早く来たため、民間の需要が増えている。皇帝は前線の焚き火の数を減らす工夫を急がせ、民の薪を軍が買い占めることを禁じた。
その決定により、前線の火は以前より少なくなった。斥候は敵に兵が減ったと思われるかもしれないと報告した。皇帝はそれを利用しようとはしなかった。火を消す理由が節約なら、兵を寒くしてまで欺く価値はない。
馬丁は曲がった蹄鉄を壁へ掛ける前に、裏へ日付を刻んだ。次の新兵が見れば、何の記念か分からないからだ。セイルは説明の札を付けるよう勧めた。失敗の跡は、その理由まで伝わって初めて次の失敗を減らす。
攻撃は三日後と定められた。皇帝は兵にその日付を伝える前に、渡河後の撤退路をもう一度確認した。待つことには代価がある。待たないことにもある。どちらを払うか決めるのが、皇帝の仕事だった。




