曲がった蹄鉄
王国の騎兵隊が出発直前に足止めされた。馬の一頭が蹄鉄を曲げてしまったのだ。隊長は急ぎ別の馬を出そうとしたが、セイルは馬丁から事情を聞いた。蹄鉄が曲がったのは訓練場の石段で、同じ場所で二頭がつまずいていた。
任務そのものは、川の上流にいる見張りへの交代要員を届けることだった。急ぐ必要はあるが、馬が傷めば途中で足が止まる。セイルは馬を替え、同時に石段の欠けた部分に印を付けた。後で工兵が直すよう手配した。
上流へ向かう道は二つあった。短い林道と、遠回りの畑道。隊長は林道を選ぼうとしたが、セイルは昨夜の雨量を尋ねた。林の木陰では地面が乾きにくい。重い装備を付けた馬には、畑道の方が速いかもしれない。
隊長が訝しみながら畑道を進むと、道は固く、車輪の跡も少なかった。夕方前に交代要員を届けられた。帰途には村から預かった手紙を運び、王都へ送る郵袋に加えた。
本営に戻ると、石段はすでに修理されていた。蹄鉄師が曲がった金具を見せ、「次はここへ馬を通す前に確認してくれ」と兵へ言った。セイルはその場に立ち会い、足元の石の角度を確かめた。
皇帝が病院を出ると、回復した兵が松葉杖をついて庭を歩いていた。歩幅は短いが、昨日より少し伸びている。レオンハルトは足を止め、軍医へ退院の判断を急がせないよう告げた。兵が戻る場所は戦場だけではない。生家の畑へ帰る者もいる。
敵と戦わず、誰も名誉を得ない一日だった。それでも交代した見張りは眠ることができ、馬は無事に戻った。曲がった蹄鉄は訓練場の壁へ掛けられ、石段を修理した理由として残された。




