誰の火薬か
王国軍の補給倉庫で、火薬の樽に水が染み込んでいるのが見つかった。倉庫長は横流しを疑った。樽の数が台帳と合わず、蓋には見慣れない印が押されていたからだ。セイルは兵を責める前に、樽が届いた日の天気と荷受けの順番を尋ねた。
樽は帝国との戦争が始まる前、民間の採石場から買い上げたものだった。採石場の印を軍の管理官が知らず、記録は別帳簿に残されていた。二つを照合すると数が揃った。消えたと思われた火薬は倉庫の奥にあり、湿った樽は雨の日に屋根の穴の下へ置かれていた。
「使えぬ火薬を前線へ送れば危険です」とセイルが言うと、倉庫長は顔をしかめた。兵が必要としている。けれど不発が続けば、敵の前で退けなくなる。セイルは使える樽と傷んだ樽を分け、火薬師に検査を任せた。
隣の工房では、火薬を詰める袋を縫う女性たちが働いていた。彼女たちは軍人ではないが、袋の縫い目が甘ければ粉がこぼれる。セイルは作業台の高さを調整し、手首の痛い職人が休める時間を作ってもらった。
夕方、使える樽だけが荷車へ積まれた。倉庫長はセイルに謝罪した。「疑う前に調べるべきでした」
「疑ったことは悪くありません。確かめられてよかったです」
訓練を終えた馬丁が「敵の馬も同じように蹄を痛めるのでしょうか」と尋ねた。皇帝は頷いた。敵味方を分ける旗の色は、馬の脚には関係ない。国境の泥が同じなら、そこへ足を踏み入れる者は同じ危険を負う。その事実は作戦を考えるとき役に立つ。
セイルは濡れた樽の木目を見た。倉庫に必要なのは火薬だけではない。雨の入り込まない屋根と、記録を照らし合わせる人の手も要る。




