違う色の煙
王国の見張り台から、国境の向こうに二筋の煙が見えた。一つは薪の白い煙、もう一つは黒く細い煙だった。若い兵は帝国軍の信号だと言い、騎兵への警報を鳴らそうとした。セイルは望遠鏡を借り、煙の下に見える屋根を調べた。
煙の一つは鍛冶炉から出ていた。帝国軍が蹄鉄を直しているのだろう。だが黒い煙は風が吹いても同じ太さで伸びる。油布を燃やしているようにも見えた。セイルはその位置を地図に示し、今すぐ兵を動かすのでなく、翌日も同じ時刻に煙が上がるか確かめるよう頼んだ。
午後、別の見張り台でも黒い煙が観測された。場所は異なるが時刻が近い。将軍ダリオは敵の合図に違いないと判断した。セイルは煙の高さから、二か所は互いに見えないことを指摘した。合図を送るなら、見える場所を選ぶはずだ。
調べに行った斥候の報告は、意外に平凡だった。二つの野営地で同時に古い馬具を焼いていたという。革に塗った油が黒煙を出していた。疫病を避けるための処分だった。
「警報を鳴らさなくてよかった」と若い兵が息をついた。セイルは頷いたが、黒い煙を疑ったこと自体は無駄ではないと伝えた。確かめるまで判断を止めるという仕事が、一つ増えたからだ。
煙を見張っていた兵は、翌日から風向きも記録するようになった。紙が足りず、最初は板へ炭で書いた。セイルは古い帳簿の裏紙を渡し、使い終えたら本営へ持ち帰るよう頼んだ。小さな観測が積み重なれば、違う日の煙と比較できる。
日暮れの見張り台には、二種類の記録が残った。確かなことと、まだ確かでないこと。軍議で混ざりやすい二つを分けた小さな表だった。




