市場の取引
帝国皇帝レオンハルトの前に、王国の辺境商人から秘密の取引を求める書状が届いた。国境の町を帝国軍が安全に通すなら、穀物倉庫の場所を教えるという。書状には王国側の役人の印まで押されていた。真実なら軍の助けになる。偽りなら、深入りした兵が包囲される。
皇帝は交易に詳しいリディアへ書状を渡した。「この印を見たことはあるか」
「町の印ではあります。ただ、今はその役人が在任しているか分かりません」
皇帝は先に商人本人の安全を確かめた。密告の見返りを与える約束ではなく、商談の内容を確認するため面会したいと返事を送る。取引が本物でも、住民を裏切らせるだけの方法は長く続かない。
数日後、使者から報告が届いた。商人は辺境の町に滞在しておらず、印だけが古い紙に押されていた。書状を持ち込んだ男は、軍から金を取ろうとした別の商人だった。皇帝は偽の書状を証拠に保管させた。
クラウスは怒って使者を処罰しようとしたが、皇帝は止めた。調べて偽りと分かったのなら、その者は役目を果たしたことになる。
「敵の作戦なら巧妙ですな」と将軍は言った。
「敵ではないかもしれぬ。戦は人の欲を増やす」
捕らえた偽の使者の荷から、別の町の地図が何枚も見つかった。皇帝はその一枚を手に取り、町の入り口に描かれた市場の印を確かめた。国境の緊張を金に換えようとする者は一人ではない。軍が噂に値札を付けぬことも、防衛の一つになる。
帝都の市場では穀物の値が少し上がっていた。皇帝は軍が一度に買う量を減らし、週ごとに分けて契約するよう命じた。値を吊り上げて民の食卓を乱すことも、軍が自ら作る敵である。




