種の行き先
王国の後方にある共同倉庫へ、避難民が持ち寄った種袋が集まっていた。小麦、豆、薬草。札の書き方が家によって違い、どれが誰の物か分からなくなりかけている。セイルが中へ入ると、老人と若い農夫が同じ袋を巡って争っていた。
二人とも嘘はついていなかった。同じ品種の種を、似た袋に入れていたのだ。セイルは元の村、畑の土、種の乾かし方を聞き、袋の縫い目を確かめた。決め手は結び目に混じった青い糸だった。老人の家では、袋を直すときに漁網の糸を使うという。
「次に間違えないようにしましょう」彼は木札を切り、品種と持ち主、元の畑を書いて付けた。文字を書けない者には、紋や目印を描かせた。手伝う子供たちは、自分の家の印を覚えて嬉しそうだった。
倉庫の管理官は軍用地に種を置くことを嫌った。セイルは空き家の地下室を借り、乾燥剤になる炭を周囲に置く案を出した。害虫の混入を防ぐため、袋を床から離す棚も作る。食糧と種を同じ扱いにすれば、飢えたときにすべて食べ尽くしてしまう。
作業が終わったころ、村を離れた農夫が戻ってきた。故郷の畑は敵の斥候が通る道になり、今年の収穫は諦めたという。それでも袋の札を見て、少しだけ肩の力を抜いた。
「来年も植えられますね」
地下室へ種を移す際、袋の一つが湿っていることに気づいた。セイルは袋を開き、傷んだ粒だけを取り除くよう農夫へ頼んだ。捨てる種があるのは惜しい。しかし一袋を惜しんで隣の袋まで腐らせれば、春に播くものがなくなる。
「植える土地があればな」と農夫は答えた。セイルは安易に大丈夫だと言えなかった。ただその土地へ戻る日が来たとき、種が残っているようにする。それが今の仕事だった。




