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《適正》の軍師――SSS級冒険者は、天才皇帝の侵攻に挑む  作者: 竜太郎


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届けられなかった命令

帝国軍の伝令が、浅瀬から本営へ向かう途中で行方を絶った。皇帝レオンハルトは敵の襲撃を疑ったが、道には争った跡がない。伝令の馬も姿を消していた。重要な指令書は封筒に入っていたものの、敵に渡れば前線の配置が知られる。


捜索隊を出す一方、皇帝は伝令の通るはずだった道を調べた。昨日の雨で橋桁が歪み、車輪の通れない箇所があった。馬なら渡れるはずだったが、雨のあとに川の流れが増した。伝令が安全な遠回りを選んだ可能性が高い。


夜、馬だけが村の厩に戻ってきた。背には手綱が絡まり、脚には草の種が付いている。村人に聞くと、伝令らしい男が崖下の道で助けを求めていたという。捜索隊は崖へ向かい、負傷した伝令を見つけた。命令書は懐に無事だった。


クラウスは任務を遅らせた罪を問おうとした。皇帝は先に、なぜ予備の伝令がいなかったのかを尋ねた。事故は誰にでも起こる。だが一人の負傷で命令が途絶える仕組みは、直せる。


その後、重要な指令は二つの道で送るように改められた。伝令の負担が増えないよう、宿場に替え馬と休憩所を用意する。変更には金と人手がいる。皇帝はそれを惜しまなかった。


命令を二経路で送ると、内容の異なる写しが届く危険もある。皇帝は番号と署名を揃える規則を加え、伝令の責任だけにしないよう命じた。仕組みを増やすと新たな間違いも増える。だからこそ、点検の方法まで一緒に決める必要があった。


翌朝、助かった伝令は自ら処罰を願い出た。皇帝は「次は必ず帰れ」と告げ、療養を命じた。伝令が敬礼したとき、その手はまだ震えていた。命令を運ぶ仕事も、命を運ぶ仕事だった。

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