盾の裏側
王国の歩兵隊が訓練に使っていた盾は、表面ばかり磨かれていた。セイルが一枚持ち上げると、裏側の革紐がひび割れていた。見た目は立派でも、強い衝撃を受ければ腕から外れる。訓練長は「次の支給まで持つ」と言ったが、セイルは小さな刃で紐の端を押した。そこから裂け目が広がった。
倉庫には予備の盾がなかった。セイルは革細工師を集め、既存の盾から使える紐を取って組み替えることを提案した。全てを一度に直そうとせず、一隊ずつ訓練と修繕を交互に行う。隊長たちは兵を抜かれることを嫌ったが、壊れる盾を持って戦うよりよい。
修繕の待ち時間に、セイルは盾を持つ兵と槍を持つ兵を向かい合わせた。二人の距離を少し変えると、槍の穂先が盾の縁に引っかからなくなった。特別な技術ではない。互いの肩幅と足の長さを考えただけだった。
若い歩兵が尋ねた。「セイルさんの適正があれば、どんな攻撃でも防げますか」
「いいえ。盾が割れたら防げないこともあります。相手が三人なら、一人で全てを見るのは難しい」
自分の力を試したことは何度もある。最もよい動きを感じても、身体が届かない相手はいる。島で負った古傷は、その証拠だった。
革細工師のひとりは、王都で普段は祭りの太鼓を直していた。盾の革紐も太鼓の皮も、張りすぎれば裂ける。セイルはその職人から指先の力の使い方を聞き、兵へ渡す前に全ての紐を確かめた。専門の違う技が、静かに一つの盾を支えた。
夕方、直した盾が一隊へ渡された。兵たちは裏側の革を引き、腕に合うか確かめた。表の紋章は古いまま。だが支えるものは新しくなった。セイルは修繕師に礼を言い、次の倉庫へ向かった。




