穀物の数え方
帝都の軍務院には、国境を赤く塗った地図が掲げられていた。将軍たちが騎兵の進路を論じる横で、皇帝レオンハルトは一枚の薄い紙を読んでいた。北部の貯蔵庫で昨年失われた麦の量。鼠害と記された数字は、前々年の三倍に増えていた。
倉庫番を呼び出すと、老人は罰を覚悟した顔で膝をついた。皇帝は罪を問いたださず、屋根の修繕履歴を尋ねた。雨漏りを報告する文書は三度提出され、三度とも予算不足を理由に戻されている。失われた穀物の価値は、屋根の修繕費をはるかに超えていた。
「鼠を処罰しても麦は戻らん」皇帝は補修資材を送る決裁を下した。リディアは机上に国境税の記録を並べた。王国から入る木材は安いが、帝国産の鉄を送り返す際に高い税がかかる。父帝が認めた協定だった。
「先帝陛下は戦を避けるため、税率を受け入れました」
「父上が守ったのは二十七年の平和だ。その二十七年を、二十八年目の飢えにしてはならない」
軍議では小国のように振る舞う王国を侮る声もあった。だが王国には山岳の鉱脈と豊かな河畔があり、職人の技術も高い。兵の数だけ比べて勝てる相手ではない。レオンハルトは、進軍より先に馬の蹄鉄の規格を揃えさせた。
蹄鉄師たちは新しい規格に不満を述べた。今までの金型を作り直さねばならないからだ。皇帝は工房に移行期間を与え、古い在庫を廃棄せず予備として使わせた。統一を急いで腕のある職人を失えば、規格だけが立派でも馬は歩けない。
会議が散ったあと、皇帝は倉庫番に古い帳簿を持ち帰らせた。自分の名前を記した新しい修繕承認書を添えて。明朝、その老人が帰る荷車には、兵糧より先に瓦と釘が積まれる。戦争を考える皇帝が最初に動かしたのは、朽ちた屋根だった。




