覚えられない型
王国の訓練場で、若い槍兵たちがセイルに教えを請うた。SSS級の冒険者なら、何か特別な槍術を持っているはずだという。セイルは断ったが、兵たちは一度だけ手合わせを願った。訓練長も興味を隠さなかった。
木槍を渡されたセイルは、深く構えず、相手の踏み込む足を見ていた。若い槍兵が突くと、彼は半歩だけ位置を変え、柄を軽く押した。相手は自分の勢いで砂に膝をついた。次の兵には別の動きで応じた。どれも同じ型に見えず、真似しようとすると上手くいかなかった。
「何流の槍ですか」と訓練長が尋ねた。
「分かりません。槍を持てば、こうしたほうがいいと思うだけです」
兵たちは首を捻った。彼のスキルを聞かれると、セイルは「適正です」と答えた。十歳の授与の儀で告げられた二文字だ。剣術スキルを得た者は剣の上達が早く、槍術なら槍の理が身体へ刻まれる。それは誰もが知っている。しかし「適正」が何に向くのかは、本人にも分からない。
訓練長は同じ動きを教えてほしいと頼んだ。セイルは困った。今の一歩は目の前の相手に合ったもので、次の相手には違う一歩になる。そこで彼は足元の砂を均し、槍兵に互いの踏み出す癖を見せ合う練習を提案した。
訓練長は翌日、セイルの動きを一人で再現しようとしたが、何度も失敗した。セイルは正解の型を押しつけず、相手の背丈に合わせた間合いを探すよう勧めた。槍の長さは同じでも、持つ人の腕の長さが違う。その当たり前を、兵たちは体で確かめた。
夕方、若い兵たちは特別な奥義を覚えなかった。それでも相手の膝を見るようになり、無理に前へ出る回数が減った。セイルは木槍を返し、掌に残ったささくれを指で取った。




