舟の借り賃
王国の補給隊が川を越えられずにいた。橋は軍の馬車で埋まり、上流の渡し場は増水している。セイルは川沿いの漁師を訪ね、小舟を何艘借りられるか尋ねた。漁師は鼻で笑った。「兵を運べば敵に舟ごと沈められる。うちの舟は飯の種だ」
セイルは兵を乗せるつもりはなかった。運ぶのは包帯、乾燥野菜、靴底の革。水を吸わず、重すぎず、欠けると困る物を選ぶ。漁師には危険な渡河を頼まず、川の曲がり角にある安全な入江まで運んでもらう。そこからは荷車で陸路へ戻す。
借り賃を聞かれたセイルは、通常の二倍を申し出た。軍の財務官は渋ったが、舟を失う危険に見合う金額だと説明した。漁師は最終的に三艘を出し、その代わり船頭は自分たちで選ぶと約束させた。
最初の荷が着いたとき、補給将校は中身を見て拍子抜けした。「革靴の修理道具ばかりだ」
「歩けなくなる人が減ります」
前線の兵たちは、靴底を直す糸を喜んだ。川を越える大きな兵糧はまだ陸路に残るが、小さな不足は埋まった。船頭たちは帰りに空の樽を載せ、再利用できる木材を持ち帰った。
夜、漁師の親方はセイルに賃金の入った袋を見せた。「軍に舟を取られると思っていた。買い上げだって言っておけば、わしらは明日も魚を獲れる」
舟を返す日、船頭は小さな傷を船底に見つけた。セイルは借りた側の責任として修理費を払った。漁師は軍の財務官より先に領収書を差し出し、互いに少し笑った。川を渡った荷は目に見えない場所へ届いたが、舟は明日もこの岸で使われる。
セイルは返事の代わりに、川の流れを見た。戦で使う川と、暮らしに使う川は同じ水だった。片方だけを救うことはできない。




