靴跡の向こう側
王国の前線に、帝国が砂州の西端へ新しい足場を組んだとの知らせが入った。セイルは見張りの図を見て、岸の形が以前より直線的になっているのを知った。補強の木枠が完成したのだろう。そこへ舟を着ける余地も増えていた。
ダリオは予備兵を丘へ集めたいと考えた。セイルは現地で歩ける道を確かめ、丘の裏の細道を荷車が通れないと示した。兵だけ増やしても、矢と食料が届かなければ長く守れない。二人は予備軍の半数を中央に残し、残りを水辺の交代部隊へ回すことで合意した。
午後、セイルは王国兵の靴跡を追った。新しい見張り道は草を踏み固め、敵からも見つけやすくなっていた。彼は草を刈る代わりに、既存の畑道をいくつかつなぐ案を出した。農家には畑を通る時間を尋ね、軍が踏んでもよい場所を確認した。
現地の隊長は「結局、敵の動きを待つのですか」と聞いた。セイルは首を振った。待つ間にも守りを変える。兵の立つ位置と補給路が整えば、相手がどこへ来ても選べる道が増える。先に攻撃しないことは、何もしないことではない。
農家の馬車が通れる場所には、雨除けの木陰が少なかった。セイルは補給路として使う前に、牛が休める平地を確認させた。兵を隠す工夫が住民の荷車を塞ぐなら、別の道が必要だ。ダリオは農夫の話を聞き、軍の時間帯と市場へ向かう時間帯を重ねないようにした。守備の工夫は土を踏む人の数だけ調整を要した。
日暮れ、丘の裏に新しい水桶と予備の靴が置かれた。誰かが勝利のための道具だと呼ぶことはなかった。しかし次に負傷者を運ぶとき、暗い斜面で足を滑らせずに済むだろう。セイルは遠い砂州の影を見つめ、今日守れた範囲だけを確かめた。




