返らぬ勝報
帝国の宮廷には、葦原で王国軍を大きく破ったという勝報が先に届いていた。レオンハルトは正規の報告と数字が合わないことに気づき、出所を調べさせた。地方の貴族が前線の噂を膨らませ、寄付金を集めるため勝利として広めたという。
皇帝は寄付そのものを取り消さなかったが、目的と使途を訂正させた。戦死者の数が違うまま町へ知らせれば、家族は無用の恐怖を抱く。クラウスは士気を高めるため小さな誇張は仕方ないと言ったが、レオンハルトは軍の士気が虚報で支えられることを嫌った。
宮廷の新聞係は、訂正文をどこへ載せるべきか尋ねた。皇帝は最初の勝報と同じ場所へ出すよう命じた。小さな欄へ追いやれば、訂正を知らない者が残る。書き直した数字には帝国の負傷者も含まれ、王国兵の死者数は確定していないと明記された。
広場で新聞を読んだ兵の父親は、最初の報せより地味になった記事に安心した。息子の所属する隊は大きな戦闘に巻き込まれなかったのだという。レオンハルトはその話を聞き、勝報を待つ人の中には勝たなくてよいから無事でいてほしいと願う者がいることを思った。
訂正文を配る新聞売りは、最初の号を買った人へ声を掛け直した。儲けにならない仕事だったが、誤った知らせを抱えたままにしたくなかったという。皇帝は販売の損失をすべて補償するのではなく、軍が原因を作った部数だけ支払いを認めた。広場では訂正文を読んだ人々が、互いの家族の無事を確かめ合っていた。
訂正文が広まるころ、前線では兵が濡れた装備を干していた。レオンハルトは別の戦況を偽らず伝える手段を整えさせた。誰かが勝ったと叫ぶより、何が起きたか正確に届く方が、次の判断を支える。




