鐘を三度鳴らす
前線の村には、避難を知らせる鐘が一つしかなかった。火事のときも洪水のときも同じ鐘を鳴らす。セイルが村へ着くと、老人たちが鳴らし方を巡って話し合っていた。急いで鳴らせば兵が来ると思う者もいれば、敵に位置を知らせるだけだという者もいる。
セイルは村の子供に、鐘の音がどの畑まで届くか聞いてみた。子供たちは遊びの途中に聞こえる鐘の音をよく覚えていた。東の丘ではよく聞こえ、西の水車小屋では川音に消されるという。そこで鐘とは別に、丘から布を掲げる伝達方法を加えた。
鐘を三度ゆっくり鳴らしたら荷物をまとめる。続いて短く五度なら村を出る。雨の日は布を使う。決まりを教えるため、広場で一度だけ練習を行った。大人は渋い顔をしたが、子供はすぐに覚えた。
避難訓練の途中、パン屋の女主人が釜の火を消すのを忘れた。誰かが責めようとしたとき、セイルは火を消す役を決めていなかったと気づいた。仕事を持つ人は、自分の店の最後の確認を任せる。新たに水桶の係も置いた。
夕方、鐘が本当に鳴った。対岸で帝国の騎兵が見えたという知らせだった。村人は訓練通りに動き、荷車は詰まらなかった。だが敵は川を渡らず、遠くから様子を見て去った。村の人々は苦笑いし、集めた荷を家へ戻した。
鐘を吊るす縄は古く、引けば掌を擦りむくほど荒れていた。村の縄職人が新しいものを編み、子供の手にも届く高さへ結び直した。大人がいない時間に危険が来ないとは限らない。セイルはそのことを村長と確認し合った。
セイルは練習を無駄だと言わなかった。明日また鐘が鳴るかもしれない。子供が赤い布を折り畳むのを手伝いながら、どの家も自分の足で広場へ来られたことを確かめていた。




