境界の代価
皇帝レオンハルトは、占領地の町を守るために置く兵の数を検討していた。国境を一里進むたび、背後にも人が必要になる。道を守る者、倉庫を守る者、橋を直す者。地図上の矢印だけなら速く伸ばせるが、その下には幾筋もの補給線が残る。
クラウスは軍を二つに分け、主力で王国の第一砦を圧迫する案を示した。皇帝は一方の部隊の食糧日数を尋ねた。答えは七日。雨が続けば三日になる。皇帝は七日で勝つ作戦ではなく、三日でも引き返せる配置へ修正させた。
「陛下は慎重すぎます。兵の士気は上がっております」
「士気の高さは、乾いた麦を増やさない」
皇帝には野心があった。大陸に二つの国境線を残し、毎年の関税交渉で民の暮らしを削り合う仕組みを終わらせたい。だが、統一した大陸が焼け野原であれば、王冠は重い石でしかない。自分の望みが兵の足を速める理由になることを、彼は恐れていた。
夕刻、前線から小さな報告が届いた。王国軍は追撃に出ず、湿地の土だけを採って退いたという。クラウスは臆病と断じたが、皇帝は地図の湿地に印を付けた。敵は勝てる戦いを探す前に、負ける土地を減らしている。
「相手は兵の命を明日の仕事に残すつもりだ」
夕食の席でクラウスは、雨季が終われば王国軍を押し切れると語った。皇帝はその見通しを否定しなかったが、晴れた日に河川がどう変わるかの資料を求めた。乾く土地と乾かない土地が混在する以上、晴天もまた一つの条件にすぎない。
書記官が記した言葉を、皇帝は消させなかった。敵の堅実さを認めても、帝国の進軍は止まらない。ただし、足元を確かめる時間はさらに必要になった。




